第18話 ポートレート

 昼食後、高瀬雪穂は教室の自席でカメラ雑誌を読んでいた。

 次に買う候補のレンズの性能を比較チェックする。


 やっぱり買い物って、どれにするかカタログ見比べている時が楽しいわよね。


「雪穂、またカメラ買うの?」友人の佐伯志歩が呆れたように言う。私の前の席を借りて座っている。

 志歩はカメラに興味を示さず、スマホをいじりながら話しかけてきた。


「カメラじゃなくて、レンズね」

「そんなにレンズいるの?」

「んー、撮りたいシーンによって変わるかな?」

 基本はポートレートだけどね。


 奈乃ちゃんの可愛さを、どうやって写真に切り取るか?


「新しいカフェできてるよ。良さそうだから帰り寄ってかない?」

「ええ。行ってみましょう」奈乃ちゃんが気に入りそうか確認しないとね。




 新しいカフェはお洒落だった。

 志歩がスマホで写真撮ってSNSにアップしようとするぐらいには。

「雪穂、最近写真アップしてないよね?」

「勝手にアップするわけにはいかないでしょ?」

「?」


 奈乃ちゃんが可愛すぎるからって、勝手にアップはできない。

「いや、料理とか……」

「ん……」

 料理をアップするなら、焦点距離が短くって反射率の低いレンズがいるかな?

 そんな接写レンズいつ使うの?


 奈乃ちゃんの可愛いお目めをアップで撮るの? それはそれで可愛いだろうけど、女の子の顔のアップって嫌がられるよね?


「雪穂、何を言っているのかわからない……」

「ん……。奈乃ちゃん以外興味ないな……」

「いやいや、せっかくいいカメラ買ったのだから、風景とか色々撮ったら?」

「ん……」確かに、キレイな景色をバックに奈乃ちゃんを撮って見たい、ならわかる。


「オカマしか撮らないなんて、機材のムダ遣いでしょ?」

「志歩。……今度言ったら怒るからね」

「……」



 話題を変える。いつも通り、和やかで笑いの絶えない会話。こういう会話は得意。現役だから。


「あれ? 柏木じゃない?」

 志歩の言葉に、視線の先を追う。


 柏木奈乃くんが友人らしい人たちと、席につくところだった。柏木くんと男の子と女の子二人の四人だった。みんな学校の制服を着ている。柏木くんは男子の制服を着ていた。


 そんなに広い店舗ではない。柏木くんが私に気付く。

 そして微笑んで片手を上げた。


 私も微笑んで会釈する。


 柏木くんと一緒にいる三人も私に気付く。

 柏木くんのお友達にも軽く会釈して、視線を戻す。


 柏木くん、女の子の友だちいるんだ……。

「……ちっ!」


「え? 雪穂、今舌打ちした?!」志歩が驚いている。

「してないわよ?」

「……」




 高瀬雪穂は柏木奈乃と河川公園に来ていた。土曜日の朝。今日も気温が高くなりそう。


「奈乃ちゃん、これ持って」カメラバックから、最近買ったレフ板を出す。

 折り畳まれていると、レジャーシートか何かにしか見えない。奈乃ちゃんは不思議そうにレフ板を持つ。

「奈乃ちゃん、広げてくれる?」

 奈乃ちゃんは少しレフ板をみて、マジックテープに気付く。テープを外すと、勢いよくレフ板が丸型に広がった。

「わっ!」奈乃ちゃんが可愛く悲鳴を上げた。

「うふふ……」思わず声を出して笑ってしまう。

「もー! ビックリした!」奈乃ちゃんがほっぺをぷくーとふくらまして怒る。


 え? 何? ほっぺ膨らまして怒るなんて、そんなあざとい事するの?


 あわててシャッターを切る。

 奈乃ちゃんが驚いた顔をする。

「え? 何?」

「奈乃ちゃん、もう一回お願い!」

「何を?」


 奈乃ちゃんにレフ板を腰の辺りでもってもらう。角度を斜めにして、奈乃ちゃんに光を反射させる。

 正面を避け左斜めからカメラを構える。レフ板はわざとフレームに入れる。


 今日の奈乃ちゃんはガーリーに寄せた服を着ていた。深い緑のワンピース。白の半袖のブラウス。同じ緑のリボンが襟についている。スカート丈は膝下まであり、白のロングソックス。飾りリボンのついた茶色の靴。ロングヘアーにも白のリボンをつけたいた。


「奈乃ちゃん! お顔だけ、こっち向けて!」

 奈乃ちゃんは恥ずかしそうにポーズをとる。

「奈乃ちゃん、ほっぺ膨らませて!」


 最高にあざと可愛い!




 柏木奈乃は高瀬雪穂と河川公園に来ていた。


 今日も雪穂ちゃんはカメラ女子している。カーキ色のチノパンに、白い半袖の開襟シャツ。首までボタンを留めているけど、裾はパンツから出している。やっぱりボーイッシュでカッコいい。

 そして、大きなカメラバッグがガチっポイ。


「奈乃ちゃん、ほっぺ膨らませて!」

 言われた通り、拗ねた感じでほっぺをふくらませる。

 やりすぎて変顔になってない? 大丈夫?


「きゃー、奈乃ちゃん、可愛い! すっごくあざとくって可愛い!」


 え? あざとい……?



「私、あざとい?」

「うん! とっても可愛いわよ!」

 どうやら雪穂ちゃんとは、あざとい、の使い方が違うみたい。



 昼にランチをしにカフェに入る。


 一口サイズの可愛く盛り付けられたパンケーキ。

 どうしよう?可愛すぎてどこから食べたらいいのかわからない。

 雪穂ちゃんを見ると、一枚を一口で食べた。一口サイズだものね……。


 ナイフで切り分けながら食べることにした。



「友だちがね。せっかくいいカメラ買ったんだからポートレート以外も撮ったら? て、言うのよ」

「うん」そうね。

「だから撮影旅行に行こうと思うの」

「うん。カメラ女子っぽいね」

 フォークを置いて、私をじっと見てくる。


 何?


「奈乃ちゃん。夏休み、一緒に撮影旅行に行こう!」


 え? 二人で旅行?

「日帰り?」

「できたら泊まりで!」


 いいの?

 女の子と?

 いえ、女の子同士?

 ん? わかんない!



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