第12話 手作りクッキー

 昼休み。教室で羽崎正人は友人の柏木奈乃と昼食を食べていた。二人ともお弁当だ。

 食べ終わる頃に委員長がやってきた。

「二人ともいいかな?」

「ん? なんだい?」柏木が返事する。

「今度の土日のどちらか空いてないか?」

「何があるんだ?」

「クラスのみんなで遊びに行こうかと思ってね」

「クラス会? こないだやったばかりなのに?」

「今度は外でね」

 柏木はあきれた顔をして俺を見た。


 悪い、柏木。知ってた。

 先に委員長から聞いてる。そして柏木が来るように助力しろとの要請だ。クラスの総意らしい。

 みんな、奈乃の事好きすぎだろ。


「良いね。行くよ。土日どちらも空けられる」俺は予定どおり答えた。

「え?」柏木が俺の即答に驚く。

「柏木、土日の予定は?」俺から柏木に尋ねる。

「えっと、土曜日は空いてるけど……」

「じゃあ、土曜日だったら柏木も参加な」委員長はそう言って他のクラスメイトのところに行った。みんなに予定を確認している、フリだった。


 柏木は参加するとは一言もいってないのに、土曜日だったら参加することになった。

 もちろん、クラス会が開かれるのは土曜日だ。


「行くのか?」

「行こうぜ」

「あ……、ああ」

 今回もクラスオーダーをクリアした。いや、別に俺はいいんだけどね。普段から奈乃と遊べるし。

「今日、家行っていいか?」

「いいけど。何しに?」

「ゲームしに」

「ゲーム好きだな、羽崎」

 奈乃が好きなんだけどな。言えないけど。



 帰りのホームルームで土曜日にクラス会が開かれることが告知された。

 ほとんどが参加するらしい。担任も。

 どうしても参加できないクラスメイトからブーイングがでたが、

「曜日や時間を変えて、月に一度は開催する」と委員長が約束して収拾した。

 お前ら奈乃の事好きすぎだろ。




 クラス会の開催される土曜日。

 羽崎正人は柏木奈乃の家のチャイムをならした。


「はーい」女の子の声が聞こえる。

 扉が開いた。

 奈乃の妹の那由多だった。


「お早うございます。羽崎さん」

「おはよう、那由多ちゃん」

「昨日はお疲れさまでした」

「那由多ちゃんこそ、お疲れさま」

「荷物になりますけど、これお願いします」

「うん、預かるよ」

 大きめの紙袋を渡される。わかってたので大きいリュックを背負ってきた。リュックに入れる。


「おはよ、羽崎ぃー」奈乃が玄関に来た。

「おはよう、柏木」


 今日の奈乃も可愛かった。

 ピンクの上下お揃いのジャージ。サイドに白のラインが上下に入っている。胸と短パンの左裾に大きめのメーカーロゴ。白のレギンスにピンクのスニーカー。野球帽もピンクで、ショートの髪は後ろで短い房を作ってピンクのシュシュで止められていた。黒の小さめのリュックを腰のところで背負っている。


 全身ピンクかよ。

 可愛いじゃないか!


「どうかな? 羽崎ぃー」

「うん、可愛い」そのまま口に出た。

 奈乃は照れたように微笑んだ。


「羽崎さん、お姉ちゃんをよろしくお願いします」那由多は丁寧に頭を下げる。

「うん、任せて」二回目だから大丈夫。


「行ってくるね」奈乃が那由多に手をふる。

「行ってらっしゃい」那由多は緊張した顔に微笑みを作って手をふり反した。


 奈乃は前回と違って、それほど緊張はしていないようだった。

 前回と違って手が寂しい。

 どうしようかと、奈乃を見る。

 奈乃は俺の視線に気づいて、手を握ってきた。


「おはよう、奈乃ちゃん」バス停でクラスメイトたちと合流する。現地集合だが、かなりの人数が同じバスのようだ。

 奈乃の手を離す。

 奈乃は俺を見てからクラスメイトの輪の中に入った。



 公園の一角に委員長たちが準備をしていた。担任の車で色々と運んできたらしい。

 大きめのブルーシートに荷物を下ろす。


 赤のビニールひもが地面にピックで止められていた。コート線らしい。

 くじでチームを二つに分ける。ドッチボールをする。


「きゃあ!」奈乃が可愛い声で悲鳴を上げて、ボールを避ける。

 ボールを取らずに、逃げるの専門だった。

 奈乃の叫び声が可愛すぎて、相手チームはみんな奈乃を狙う。当たっても痛くないようにヘロヘロのボールで。


 ヒドイ接待ドッチボールだった。

 途中で委員長が相手チームを集めて説教が入る。

 奈乃と同じチームも奈乃を守ろうと壁を作り、かえって奈乃がゲームに参加できなくなる。

 やはり委員長の説教が入った。


 何度かチーム分け変更を繰り返して、それなりのゲームになった。


 昼御飯はめいめいが持ってきた弁当を食べる。

「羽崎ぃー」少し離れたところで弁当を食べていた俺は奈乃に呼ばれる。


 奈乃の可愛らしい弁当箱は、何故かおかずで山盛りになっていた。

「なんで?」

「おかず交換してたら、こんなになったー」

 等価交換じゃないよね。

「食べきれないー」

 半分食べる。交換したみんなごめん。でも、ちょっとは考えろよ。


 食事の後、俺はリュックから那由多に渡された紙袋を出し、奈乃に渡す。

「クッキー焼いてきたの」奈乃はそう言って小袋に分けたクッキーを一人づつ渡した。


 昨日、学校の帰りに柏木に家に誘われてついていったら、クッキー作りを手伝わされた。那由多も手伝った。

 焼けるクッキーの甘い匂いに、気持ち悪くなるぐらい作らされた。


 大丈夫、今日これなかったクラスメイトの分も用意してある。

 みんなに喜んでもらえて、奈乃も嬉しそうだった。


「はい、羽崎ぃー」奈乃にクッキーを手渡された。

 俺が手伝った分も入ってるけどな。

「ありがとう。柏木」


 奈乃は嬉しそうに笑った。



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