第11話 雪穂のカメラ

 高瀬雪穂はウジウジしていた。

 土曜日のカフェ。

 一週間ぶりの柏木奈乃ちゃんとのデートだ。先週は日曜日にデートをした。土曜日には用事があったから。


 久しぶりの奈乃ちゃん成分補充なのに、いろんな事が引っ掛かってモヤモヤする。


 いつの間に奈乃ちゃんはあのピアス男子と友達になったのだろう?

 ううん、男の子のときの柏木くんと友達になったのかもしれない。


 先週のデートのときは、ピアス男子の話しはしていない。私をかばって殴られたときのお礼も謝罪もしていない。男の子の柏木くんのときの話を奈乃ちゃんとしたくなかったから。

 奈乃ちゃんも学校の話をしない。きっと奈乃ちゃんも男の子のときの話をしたくないんだと思う。


 でも、訊きたい。気になる。いつの間にピアス男子と友達になったの?


「雪穂ちゃん?」

「え?」

「どうしたの?」

「ううん、なんでもないわよ」怪訝な顔をする奈乃ちゃんに、なんとか微笑みを返す。


 何でもないわけは無いわよ!



 今日の奈乃ちゃんも可愛かった。いつも可愛いけど。


 ランチのパスタをすすったりせずに、ハムハムと食べてる。フォークに巻くと口を大きく開けないといけないからかしら? 音をたててすするのが恥ずかしいのかしら? こんな食べ方する人初めて見たわ。

 げっし類なの? 小動物なの? 可愛いの?

 どうしてこんなに可愛いの?


 私は普通に何本かをまとめてスプーンに巻いてから食べたから。当然スプーンからはみ出した分はすすったから、もう食べ終わってる。

 おかげで、ハムハムする可愛い奈乃ちゃんをずっと見ていられる。


 今日の奈乃ちゃんは白のワンピース。ヒラヒラがたくさんついていて腰の後ろで大きなリボンを結んでいる。

 水色のスカーフを首に巻いている。黒のレギンスに白のスニーカー。髪の毛はセミロングで頭に大きめのヘアピンを色違い、水色とオレンジの二つを並べている。


 そして水色のシュシュ型のチャーム付きのブレスレット。

 この前に私がプレゼントしたブレスレット!

 着けてきてくれたのね。スカーフと色を合わせてるのね。

 とっても可愛いわ。



「雪穂ちゃん、どうしたの? 心配事?」

「ん……」

 奈乃ちゃんに心配してもらった。私の事、気に掛けてくれてるのね?


 奈乃ちゃんは食事を終えている。私の倍ぐらいかかってたけど。


「奈乃ちゃん、うちの学校でピアス開けてる男の子知ってる?」訊いてみた。悶々としていても前に進まないから。

「うん。江島くんでしょ?」

「お友達?」

「うん」

「……、いつからお友達なの?」

「先週の土曜日に、偶然お店で会ったの。話しかけられて、それでお友達になったの」


 何て事かしら! こんな事なら、先週の土曜日も奈乃ちゃんとデートするべきだった。家の用事なんて、ほっとけば良かった。


「へー……」

「雪穂ちゃん?」

「え? いえ、彼、ちょっと怖いかなって……」

「江島くんはこわくないよ?」

 怖いわよ。奈乃ちゃんといつの間にかお友達になってるなんて!

 まさか奈乃ちゃん、女の子より男の子の方が好きだなんて事無いわよね?!


「もしかして、奈乃ちゃん……、その男の子の事好きなの?」

「……」

 期待が外れて、即座に否定しなかった。

「わかんない……。私が男の子の事、好きになっていいのかな?」


 ……、それ、私に訊くの?


 私は答えられない。

 奈乃ちゃんも黙ってしまった。



「奈乃ちゃん、プリクラ行こ。カップルOKの店近くにあるから」

 このカフェを選んだのは、目当てのゲームセンターが近いからだった。




 柏木奈乃はパスタに苦戦していた。

 高瀬雪穂と過ごす土曜日のカフェ。


 スパゲッティーって食べにくいよね。

 大きく口を開けるのも、麺をすするのも恥ずかしい。だって雪穂ちゃんがずっと見てくるんだもの。


 雪穂ちゃんは今日もカッコいい。でも何か心配事でもあるのかな?

 愁いを帯びた雪穂ちゃんもカッコいいけど。


 雪穂ちゃんは、足のラインがでるピッチリした茶色のスラックスに、灰色のトレーナーにはラメ入りの英字柄。ラメいけるの? 靴はヒールのない革。


 お昼ごはん食べるだけで、時間をかけてしまった。


 雪穂ちゃんと並んでゲームセンターを目指す。外を歩いていると、夏が近いことを感じる。


 夏は嫌い。

 だって、夏は可愛い服が着れない。薄着は体型がよくわかるから。



 店の中は涼しかった。

 少し汗をかいたので、メイクを直したい。


 多目的トイレがなかった。

 あきらめる。

 雪穂ちゃんはトイレでメイクを直してきた。


 プリクラのコーナーに鏡が有った。写真を撮る前にチェックできるようだ。メイクを少し直す。


「おかしくない?」

「うん。奈乃ちゃんはいつでも可愛いよ!」


 雪穂ちゃんは役に立たない。だって、可愛いとしか言わないから。



 プリクラは初めて。雪穂ちゃんがサクサクと進める。

「奈乃ちゃん、プリクラ初めて?」

「うん」なかなか入れない。そもそも一人で入らない。



「これ、私?」

「そうよ。可愛い奈乃ちゃん」

 出来上がりの写真は何か別人みたいだった。


「近くに公園あるからそっちでも撮ろ」

 ?プリクラの筐体無いよね?


「デジカメ買ったんだ。高画質の」

 ?

 今、買ったって言った?


「プリンターも、写真用の高画質の買ったの」

 ??

 なんで?




「奈乃ちゃん、振り返って。左手で髪の毛払って!」

 ポーズをとる。

「奈乃ちゃん可愛い! 今度は少し目線下に! そうそう、スッゴク可愛い! 可愛いが過ぎる!」


 モデル撮影会みたいになってきた。雪穂ちゃんのカメラはレンズがわかれる一眼レフだった。

 大きな公園で人もかなりいた。公園にきてる人たちに注目される。雪穂ちゃんが今日も騒ぐから。


「奈乃ちゃん、ここ立って」

 斜面の上に立つように指示される。

 斜面の下に降りた雪穂ちゃんが芝生の上にしゃがむ。ファインダーではなく、可変のモニターを上から覗き込む。レンズを地面すれすれからあおりで構える。


 私はあわててスカートをおさえる。

「雪穂ちゃん、ローアングルはやめてね」



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