第8話 壁ドンの愛の告白
羽崎正人は友人の柏木奈乃と昼休みに学校の廊下を歩いていた。
他にもクラスの男子が二人一緒にいる。
柏木はクラスの人気者なので、二人っきりにはなかなかなれない。このあいだのクラス会からそれは顕著になった。
柏木がクラスメイトとどうでもいいことを話しているのを、柏木の後ろを歩きながら聞いていた。
前の方から女子が二人歩いてきた。一人はとても美人で、目を引いた。隣のクラスの有名人だ。女子にしては背も高く、髪もショートでハンサムな女子だった。
そのハンサムな女子はこちらを見て微笑みかけてくる。
「やあ、高瀬さん」柏木が声をかけた。
「柏木くん、こんにちは」高瀬さんが立ち止まる。
柏木はすれ違うときに、「またな」とだけ言った。
「うん、またね」と高瀬さんは答え、歩き出した。
「あれ高瀬さん? 柏木、高瀬さんと知り合いなのか?」
「高瀬って、女子の中では一番可愛いって言われてるよな」
クラスメイトが柏木に問いかける。
「お前ら、声でかいって。高瀬さんに失礼だろ」柏木が二人をいさめる。
俺は振り向いて高瀬さんを見る。彼女はまっすぐ前を向いて歩いて去っていく。
高瀬さんと一緒にいた女子が振り返った。俺と目が合う。
何かイヤな感じ。
柏木はいつの間に、あんな美人と知り合いになっているんだ?
後で問い詰める。
高瀬雪穂は友人の佐伯志歩と昼休みに学校の廊下を歩いていた。教室に戻るところだ。
前の方から柏木くんがクラスメイトらしい男子三人と一緒に歩いてきた。
私は柏木くんと軽く挨拶をかわす。
「高瀬って、女子の中では一番可愛いって言われてるよな」
通りすぎてから、柏木くんの友達らしい男の子の言ったことが耳に入った。
私って女子の中では一番可愛いって言われてるんだ?
女子に限定しなかったら、奈乃ちゃんがこの学校で一番可愛いかな?
柏木くんのクラスメイトは奈乃ちゃんに合ったことあるのよね?
志保が後ろを振り返る。
「あれって柏木?」
「そうよ」
「雪穂、柏木と知り合いなの?」
「ええ」お友達よ。……柏木くんとお友達って言っていいのかしら? 奈乃ちゃんとはお友達よね?
「柏木って、オカマって噂だけど」
「志保」私はきつくとがめる。「そういう事言わない」
志保は不満そうだけど、それ以上は何も言わなかった。
高瀬雪穂はモテる方だ。
何度か男子に告白された。特に嬉しくない。男の子と付き合いたいとはあまり思わないもの。
告白は全てお断りしている。
何度もお断りして、断るのも慣れたものよ。
と、思っていたけど今回はちょっとまずいかな。
ええ、このタイプの男性から告白された経験はないかな。
どうして進学校にコワイ系がいるの?
そもそもいきなり廊下で告白ってシチュエーションも経験無いんですけど!
告白って、放課後の教室とか屋上とか近所の公園とかじゃないの?
前もってメールとか手紙とか伝言とか無いの?
放課後の廊下を歩いているときに、いきなり告白とか不意打ち過ぎない?
でもってゴッツイこわもてで、ピアスした男子って何よ! ここは進学校よね!?
「高瀬、聞いてる? 俺と付き合わないかって言ってんだけど?」私が何も返事しないので、彼は少しイラついているようだった。
私はこわくて言葉がでない。
足が震えるのを感じる。
無意識に後ろに下がったら壁際に追い詰められていた。
どうしてにらむの? 告白ってより、恐喝されてるみたいなんだけど……。
人通りがない訳じゃない。ただ相手がこわすぎて誰も助けてくれない。
私は泣きそうになった。
「高瀬さん、どうかしたか?」
私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
誰でもいいから助けて!
柏木くんがいた。
「高瀬さん困ってるみたいなんだけど」柏木くんは、ピアス男子をとがめる。
「うるさいな。黙ってろ。愛の告白してんだよ。わかんないのか?」
「脅してるようにしか見えないな」柏木くんは引かない。
私はこの隙にこの場から逃げようとする。
ピアス男子は私が逃げようとしているのに気づいて、逃げ道を塞ぐように壁に手をつけた。
これが壁ドンね。
とてもこわいんですけど!
「こわがってるだろ」柏木くんが、壁にドンしているピアス男子の腕をつかむ。
「邪魔すんな」ピアス男子は柏木くんの腕を払った勢いで、その手で彼の胸を殴り付ける。
あっさりと柏木くんは殴り飛ばされた。尻餅をついて、右手で後ろに倒れるのを支えている。左手は殴られた胸を押さえている。
とても痛そう。
「柏木くん!」私は泣きそうな声で叫んでいた。
「は?」何故か殴ったピアス男子は驚いていた。
「よっわ。え? 何? よっわ。マジで?」何故か不思議そう。
「今ので倒れるか、普通?!」
どうやら柏木くんが弱すぎて驚いているようだ。
「うっわ、弱いものいじめしちまったよ。ダッセ。あー、もういいわ。悪かった。俺が悪かった。もう帰るわ」
ピアス男子は全然悪いと思ってない謝罪をした。そして興ざめしたように、私を一顧だにせず立ち去った。
何なのよもー!
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