第6話 奈乃ちゃんの妹

 羽崎正人は友人の柏木奈乃とどうと言うことのない会話をしていた。


 ホームルームが終わった教室。みんなは部活に向かったり帰路についたり。

 俺も柏木も部活をしていないので帰るだけだ。急ぐ用事も無いので、柏木の席に話をしに来ていた。


「柏木、クラス会来るの?」近くの席の女子が柏木に話しかける。

 この前の臨時ホームルーム以降、みんな柏木を名字で呼んでいる。

「ああ、行くよ」

「楽しみだね」

「そうか?」柏木はそれほど興味なさそうに返事をする。「いつも学校で会ってるだろ?」

「んー」女子は言葉を濁す。


 柏木のクラス会参加表明から、クラスのみんなは浮わついている。当の柏木は覚めた感じ。

 俺が無理に誘ったので、仕方無しに参加する。といったスタンスをとっている。

 まあ、そうなんだろうけど。


 みんなが帰り際に柏木に声をかけていく。一緒にいる俺にはついでのようにしか声をかけない。

 柏木はクラスで人気者になった。一瞬で帰ってしまったクラス会以降。


 何かモヤモヤする。クラス会までは俺が一番柏木と仲良かったのに。


「柏木、またな」柏木に声をかける男子も増えた。

「ああ、またな」柏木は無愛想ながら、一人一人に返事を返す。


 うん、ムカつくよな。


「今日、お前の家行ってもいいか?」

「ん?」

「ゲームしようぜ」

 前に柏木の家に行ったとき、奈乃とコンシューマーゲームをした。

「ああ、来るか?」


 俺までクラス会を楽しみにする必要はない。柏木の家に遊びに行けば奈乃ちゃんに会える。

 お友達特権だな。



 途中コンビニによる。おやつを買うためだ。

 柏木は小さなチョコレートを買った。

 俺は冷蔵のスイーツを二つ買う。

「二つ買うのか?」

「お邪魔するからな」

「買わなくていいよ」

 柏木は遠慮したがそれでも買った。


「ただいま」柏木が玄関を開けた。

「お帰りー」中から女の子の声がした。

 柏木には妹がいるときいていたから、妹だろう。

「お邪魔します」俺も断りを入れる。

「え?」女の子の驚いた声。そして、パタパタと速足のスリッパの足音。

 妹が部屋からでてきた。

 部屋着を着ていたのでよくわからないが中学生くらいだろうか?

 妹は驚いた顔で俺を見ている。


「上がって」柏木に促されてリビングに入る。

「座って」ソファーに座る。

 妹も俺のとなりに座る。物珍しそうに俺をガン見している。

「どうかした?」

「兄さんが友達連れてくるの、初めて」物珍しそうな顔のまま、そう答えた。


「冷たいお茶でいいか?」

「あ、うん」

 柏木がお茶を三人分用意する。


 俺の買ってきたスイーツを冷蔵庫に入れてもらった。


「着替えてくるからから待ってて」そう言って柏木はリビングから退室した。


「兄さんの着替え、ちょっとかかるからゲームでもしますか?」

 妹に誘われるままゲームをする。ファミリー向けのレースゲームだ。


「兄さんとは、プライベートであったことあります?」

「あるよ」

「あ、……そうですか……」妹は微妙な反応。ちょっと無表情。多分困惑していて、どんな顔をして良いのかわかってない感じ。


「おまたせ」奈乃が戻ってきた。

 黒のフレアのミニスカートに黒のレギンス。白地に大きめの英字のプリントされたトレーナー。髪は胸くらいの長さのストレート。

 部屋着と言えば部屋着っぽい。レギンスははいているけど。


「おう」俺は普通に聞こえるように返事する。本当は舞い上がっている。

 今日も奈乃は可愛い。

 柏木はプライベートでは女の子らしい服装をしているという予想をしていた。予想通り、可愛い奈乃に会えた。


 奈乃は俺の横に座る。体が当たるほど近くに。

「私もやりたい」

 奈乃も参戦する。


 しばらくゲームをしていると、妹とも打ち解けてきた。俺と奈乃が普通にゲームしているので安心したのだろう。


「羽崎さん、組みましょう。先にお姉ちゃん倒そ!」妹が提案してきた。

 ゲームはバトルロワイヤルの格闘ゲームに変わっている。さっきから奈乃が勝ちまくっていた。


 妹は奈乃の呼び方を、兄さんからお姉ちゃんに変えていた。

「ダメ! 羽崎ぃー、私と組も? 那由多より私の方が良いよね?」奈乃は甘えた言い方をしてくる。

 あと、妹の名前は那由多だった。妹の方が姉より単位が大きかったのは笑える。那由多は不可思議の次に大きい単位だったか。


「柏木、強すぎだろ」

「えー」



「買ってきたおやつ食べよう」しばらくして俺は提案する。

 ゲームはほぼ奈乃の独り勝ちだった。


 奈乃がキッチンに入る。ちなみに那由多はソファーに座ったまま、奈乃に任せっぱなし。


 奈乃は三人分の紅茶を淹れてきた。それとコンビニで買ったスイーツとチョコレート。


「那由多ちゃん食べて」俺はスイーツを那由多にすすめる。妹が家にいるとは想定していなかったので二人分しか買っていない。


「いいですよ、羽崎さんとお姉ちゃんで食べて下さい」

「いいよ、食べて」

「でも、違う種類のケーキ買ってくるって、そういう事したかったのですよね?」

 察しが良い妹だ。そうだね。仲良く半分ことかしたかったね。

「私、部屋に行きます」那由多は自分のティーカップを持って立ち上がった。


「1時間は絶対に降りてきませんから」と言った。

「ありがとう、那由多」奈乃が声をかける。

「うん」那由多は優しく微笑んで、部屋から出ていった。


 妹は妹で、ちょっとだけ変わっている姉を心配しているのだろう。良い妹だ。



「羽崎ぃー、食べよ」奈乃はスイーツを二つとも開けて、俺にスプーンを差し出した。「半分こしよ?」

「うん」俺は自分の分のスイーツを奈乃に差し出す。

 奈乃はそれを見るが手を出さない。自分のスイーツをスプーンですくうと、「はい、あーん」と言って俺に差し出した。

 あ、こういう半分この仕方ね。

 それを食べてから、俺もスプーンで一口分すくう。

「はい」奈乃に差し出す。

「あーん」と奈乃は自分で言って、俺の手からスイーツを嬉しそうに食べた。

「おいしい!」幸せそうな笑顔。


 奈乃はあざと可愛かった。



 那由多には1時間は降りてこないと言われていたが、その後もゲームをしただけだった。奈乃は俺にくっついて楽しそうにゲームをしていたから、まあ良いかな。

 那由多、不甲斐なくてごめん。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る