第5話 メリーゴーランド

 土曜日のショッピングセンター。

 高瀬雪穂は柏木奈乃と一週間ぶりのデートを満喫していた。


 奈乃ちゃんはポテトを端っこからちょっとずつかじっていく。

 可愛い!


 小さなげっし類かしら。口をちょっとしか開かないので、一度に口に入れられる量が少ない。


 奈乃ちゃんがポテトをかじっているのを見ているだけでとっても幸せ。なんて可愛いのかしら。ずっと見ているだけで飽きないわ。


 今日の奈乃ちゃんは、明るい緑に黒が配色された、襟が首まであるトレーナータイプのパーカー。オーバーサイズでおしりまで隠れる丈。裾から白の短パンが覗く。その下に肌色のストッキングに、白のスニーカー。


 レギンスじゃなくてもいけるんだ。


 黒っぽいベースボールキャップのつばを後ろにかぶっている。少し長めの髪を左右でまとめて肩から前に垂らしている。


 白の短パンが可愛い。パーカーの丈が長くて、下をはいてないように見えるのも、ドキッてするよね。


「雪穂ちゃん?」

「え?」

「どうかした?」

「ううん、何でもない」

 いけないわ。こんな清らかな奈乃ちゃんで妄想するなんて。



 ファーストフード店を出る。

 奈乃ちゃんに似合いそうな服や小物を物色する。

 いくつか着せてみたい服があったけど、奈乃ちゃんは試着をしてくれない。

「お店に迷惑をかけるといけないから」と言っていたけど、どこに迷惑をかける要素があるのかわからないわ。


「これ奈乃ちゃんに似合いそう!」

「そうかなー?」

「似合うよ!」

 奈乃ちゃんは首をかしげることが多い。自己評価が低めなのかな?

「プレゼントさせて!」奈乃ちゃんが自分で選べないなら私が選んであげる!


 私の考えた、最高に可愛い奈乃ちゃんにしてあげたい!


 そして今度のデートに着て来て欲しい!

 そして写真を撮りまくりたい!

 できたら一緒に撮って欲しいな。


 手につけるシュシュ? ブレスレットかな?

 水色のシュシュ生地にチャームが付いているブレスレット。


 きっと奈乃ちゃんに似合う! いや奈乃ちゃんには何でも似合うけど!


「いいよ……」と奈乃ちゃんは遠慮するけど、目がキラキラしてブレスレットを見ている。

 欲しいんだね。


「買ってあげる!」私はそれを手に取りカウンターに向かう。

「雪穂ちゃん……」奈乃ちゃんは困惑気味についてくる。

 会計をして、すぐに使うからと値札をとってもらう。


 奈乃ちゃんの左手をつかんでブレスレットをつけてあげる。

 奈乃ちゃんはしばらくそれを見ていたが、左手を口許に持っていって、「ありがとう」と困ったように、それでも嬉しそうに言った。

 ヒラヒラした水色のシュシュは奈乃ちゃんにとても似合っていた。


 私の考えた最高に可愛い奈乃ちゃんは、最高に可愛かった。


 あと、流れで奈乃ちゃんの意外と大きめな……可愛い左手に触れたので大満足。




 その後もショップを見て回る。今日はブレスレットをプレゼントしただけで自重する。

 奈乃ちゃんが試着を嫌がるなら、買ってあげればいいのよね?


 店舗の端の方まで来た。このあいだのゲームセンターがあった。

 今日はどのぬいぐるみがいいかな?


「雪穂ちゃん……。クレーンゲーム以外で遊ぼ?」奈乃ちゃんがふるふると震えながらおねだりしてきた。クレーンゲームに何かトラウマでもあるのかしら?

 ふるふるしている奈乃ちゃんも可愛い!


 ゲームセンターと言えばこれが定番よね?

 女性専用と床に大きく書かれたコーナーにいわゆるプリクラが並んでいた。

 私はそちらに向かう。


「待って、雪穂ちゃん」奈乃ちゃんに袖をつかまれた。

 袖を、ちょんっ、とつかむ奈乃ちゃん可愛い!


「プリクラ、嫌?」

「ん……、カップルOKのお店でなら……」

 え? 何? 私と奈乃ちゃんはカップルってこと? 奈乃ちゃんはそう思ってるの? うーん、照れるなー。


 奈乃ちゃんがちょっと怖がって、つかんでいた袖を放す。


 あれ?




 柏木奈乃は目の前のブレスレットから目が離せなかった。

 水色のシュシュ型のブレスレット。小さなチャームが付いている。


 可愛い。私に似合うかな?

 ちょっと手が大きい方だから、視線が手に誘導されるのはどうなんだろ?


 私が悩んでいると、「買ってあげる!」そう言って、雪穂ちゃんがブレスレットを手にとって、レジカウンターにさっさと向かう。


 そして、会計を済ませたブレスレットを私の左手にはめた。

 今日も雪穂ちゃんは強引だ。

 なんの迷いもなく私の手をとってブレスレットをはめてくる。

 私は手をつかまれただけでドキドキしてるのに。


 今日の雪穂ちゃんもカッコいい。

 黒のたて襟ダブルボタンのジャケット。どこで買うの?白のパンツに黒の靴。モノトーンでシブイ。ねえ? ホントに女子高生?


 買ってもらったブレスレットが目立つように、口許に左手を持っていく。少し首をかしげて、「ありがとう」と恥ずかしそうに言ってみる。

 雪穂ちゃん、こういうの好きでしょ? 喜んでもらえたかな?


 ショップを見て回る。

 雪穂ちゃんはさかんに可愛い服の試着を薦めてくる。さすがに試着はムリだよ。私が試着室を使ったらお店に迷惑がかかるかもしれない。


 ゲームセンターに来ていた。

 先週、雪穂ちゃんにクレーンゲームでぬいぐるみをとってもらったとこ。

 今日も雪穂ちゃんが獲物を物色している。狩られるのは雪穂ちゃんだからもうやめよ?

「雪穂ちゃん……。クレーンゲーム以外で遊ぼ?」


 雪穂ちゃんはプリクラコーナーに向かう。

 床に大きく、「女性専用」と書かれていた。雪穂ちゃん、わざとなの?!


「プリクラ、嫌?」

「ん……、カップルOKのお店でなら……」

 カップルOKなら、雪穂ちゃんと一緒なら入れるよね?


 雪穂ちゃんが急に赤くなったと思ったら、にやけ顔でアワアワしだした。

 何、急に? こわい。

 思わず、つかんでいた雪穂ちゃんの服の袖を離す。


 雪穂ちゃん、たまに自分の世界に入ってニヤニヤしだすよね? 何なの?


 雪穂ちゃんが傷ついた表情を浮かべる。


 あ……。


 私はもう一度、雪穂ちゃんの袖をつまむ。

 ごめんね。


 雪穂ちゃんが、ほっとした表情をする。

 私もほっとして、微笑みかける。


「奈乃ちゃん、あれに乗ろ!」雪穂ちゃんは急に元気になって、私の手をとって歩き出す。

 感情の降り幅大きくない?

 あと、手繋がれてるのだけど……。


 私は雪穂ちゃんの手を、ぎゅっと握り返した。



「あの……、雪穂ちゃん……」

「これ、座って!」雪穂ちゃんはウキウキしながら、馬の背中を指し示した。


 ゲームセンターにある、小さい子向けのメリーゴーランド。小さいながらも屋根とかついていて、馬が二頭と馬車が一台。

 幼稚園児か、小学生低学年の子供位にちょうどいい大きさ。


 え? ……、これ乗るの? 私、高校生よ?


 雪穂ちゃんはすごく楽しそう。断れない……。


 私は馬の背に横座りする。


「ちゃんと座らないと!」

 雪穂ちゃんに押しきられて、馬にまたがる。

 あの、恥ずかしいのだけど……。


 雪穂ちゃんはお金を入れて、メリーゴーランドを動かす。そして自分はさっさとメリーゴーランドの柵の外に出た。


 え? 私、一人だけ置いてかれるの?


「奈乃ちゃん! こっち向いて!」

 雪穂ちゃんはテンション上げまくりで、スマホを片手に手を降ってくる。多分、スマホでビデオ撮影している。


「奈乃ちゃん! 手、振って!」メリーゴーランドが一周して雪穂ちゃんのところに戻る度に、雪穂ちゃんは手を振りながらポーズを要求してくる。


 ショッピングセンターのお客さんが沢山いるゲームコーナー。私は一人で子供向けのメリーゴーランドで回っていた。


 お客さんが何事かと、私を見ている。雪穂ちゃんが騒ぐから目立ってしまう。

 子供を連れたお父さんとか、男の人がガン見してくる。


 恥ずかしくって、イヤな汗がでるよ。

 これは何の羞恥プレイなの?



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