第4話 奈乃ちゃんのおうち
「ふぇ? みゅにゅぅ……」
羽崎正人の腕の中で、柏木奈乃はアワアワしていた。
何て可愛いんだ、奈乃!
俺は舞い上がっていた。
俺の17年ほどの人生で女の子を抱きしめたことはない。彼女いない歴が年齢とイコールなので当然なのだが。
奈乃の可愛さに思わず「抱きしめていいか」と言ってしまった。まさか返事が「うん」だとは思わなかった。
もう理性なんてくそっ喰らえだ。返事を聞いた瞬間に奈乃を抱きしめていた。
奈乃の家の玄関先で。
奈乃は俺より身長が低い。普通の女子の身長ぐらいだ。俺の身長は男子の平均より少し高いくらい。
見下ろしても、抱きしめている奈乃の頭しか見えない。
猫の着ぐるみパーカーのフードが目の前にある。猫耳が目の前で揺れていた。
左腕で奈乃を抱きしめたまま、右手で奈乃の頭をなでる。
「ふにゅぅ」奈乃の脱力した可愛い声が聞こえた。気持ち良さそう。
俺が奈乃を気持ち良くさせているって事に興奮するし、自尊心が満たされる。
あと、目の前の猫耳が気になる。
猫耳を触ってみる。
「んっ……」奈乃が切なそうな吐息を吐く。
奈乃の耳を触っているような気になる。
いや、ただのつけ耳なのはわかっているし、奈乃が声を出したのも何かの偶然なのだろとはわかる。
それでも俺は舞い上がって、両手で奈乃を強く抱きしめる。
「んっ……、痛いよ、……優しくして……」甘えた声。奈乃は痛がるが逆らわずにそのまま抱きしめられている。
言い方エッチじゃない? わざとだよな?
リビングのソファーに二人でならんで座っている。奈乃は俺にくっつくぐらい近くに座っている。いや、腰や足がくっついている。奈乃はわざわざアゴを引いて上目遣いで俺を見ている。
あざと可愛い。
俺はドギマギして目を合わせられない。
玄関先でいつまでも抱きしめたままでいるわけにもいかず、奈乃に家に入れられた。
「柏木、このあいだの……、クラス会のときの事なんだけど……」俺は言わなければいけないことを言おうとする。緊張しながらも、なんとか奈乃の方を見る。
俺を見つめていた奈乃が視線を外す。不快と不安の色を浮かべて。
あのときの事は、今なお奈乃を傷つけていたことを知る。
「ごめん。すぐに柏木のところに行ってあげられなくてごめん。すぐに柏木を助けてあげられなくてごめん。柏木の涙に戸惑ってしまっただけなんだ。今度は迷わない。次があれは、必ず俺が助ける。俺が柏木を守る!」
俺は一気にそれだけを言った。何か支離滅裂になってしまった。
奈乃は再び俺を上目遣いで見上げる。不安に少しの期待をのせて。
「ホント?」
「ああ、柏木は俺の大切な友達だからな」
奈乃は微妙な表情を浮かべる。
あれ? 何か間違えたか?
「ん、……ま、いっか……」そう呟いてから、奈乃は微笑んで俺の腕にしがみついてきた。
「羽崎ぃー、守ってね」甘えた声、語尾にハートマークでも付きそう。
なんでもいいけど、俺の目の前で揺れる猫耳が気になる。
その後、使命を思い出した俺はクラスのみんなの謝罪を伝える。
奈乃は不信をぬぐえないようだった。
「私の事、気持ち悪いと思ってない?」
「可愛いとしか思ってない!」
「ふぇ?……あ、うん……。羽崎じゃなくてみんなは?」
「みんなも同じだよ」
奈乃は黙る。信じられないのか……。
「今度クラス会やるから、柏木にも来て欲しい。みんなもそう思っている」
「私は珍獣じゃないよ」
「うん。柏木は可愛い柏木だよ。みんなも物珍しくて柏木に来て欲しいんじゃない。クラスメイトの柏木に来て欲しいんだ。可愛いクラスメイトと遊びたいだけなんだ」
「……うん」奈乃は少し考えてからうなづいた。
良かった。俺は使命を果たせた。いや、別に果たせなくても良かったんだけどね。俺さえ奈乃と仲直りさえできたら。
「ところで、この格好のときは奈乃と呼んでもいいか? 」
「? いいけど?」
「教室では奈乃と呼ばれるの嫌がってただろ?」
「ん……、制服のときは何か合ってないような気がして……」
「この格好のときは奈乃でいいか? クラスで呼び方を変えようって話になったんだ」
「いいよ」そして少し考えてから、
「羽崎は好きなように呼んでね」と言った。
どう言う意味だろう?
「クラスのみんなに、柏木がクラス会に来てくれるって連絡するよ。だから、写真とっていい?」
「どうして写真?」
「柏木が可愛いからに決まってるだろ!」この猫さん着ぐるみの写真をみんなにも広めよう。特に猫耳の破壊力は凄まじい。
メッセージと共に、奈乃の写真を送った。上目遣いで猫手の写真。
あと、ちゃっかり2ショットも撮っておく。
スマホの通知音をミュートに設定した。
しばらく通知が鳴りやまないことは目に見えている。
これから奈乃と遊ぶんだ。クラスメイトなんかに構っている暇はない。
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