第2話
大きな食パンがまな板に置かれる。
いつも近所のパン屋さんでスライスしてもらうときの塊より大きい。
ばーちゃんがさっき食べた端をすっと切り落とし、トースターに入れ目盛りを5に合わせた。
冷蔵庫からオレンジ色の塊が入った瓶を出し、
「次はこれで食べようか」
そう言って蓋を開けると、甘酸っぱいオレンジの香りがあふれてきた。
トースターで軽く焼いた食パンに半分マーガリン、半分マーマレードを塗る。
お皿に置いたトーストをこわごわと持ち、恐る恐る小さくかじる。
さくっとして食べやすい。そして甘い。
家で食べるあの『がりがり』とした堅さがない。
気が付いたらばーちゃんは笑ってまた食パンを切っていた。
自分の皿を見ると空っぽ。
夢中になって食べてしまっていたらしい。
「これな、先にマーガリン塗って焼いてもおいしいんやで。」
そう言ってすっとマーガリンをパンに塗り、トースターに入れる。
「さっき使ったところでまだあったかいから、これを3に合わせてみ。」
トースターの右下にあるつまみを指すので、言われたように目盛りを合わした。
何気にトースターを触るのは初めてだった。
手を離すとトースターの中が少し赤くなる。
パンにマーガリンが染み込み、淡い蒸気があがるのをじっと見つめていると
「さっき食べたのは5の目盛り。おうちで食べるときさおーちゃんが最初に使う時は5の目盛りにしたらええんやで。誰かが使ってすぐの時は今みたいに3に合わせたらええよ。」
言い終わると、チーンっとトースターから音がして中の明かりが消える。
「これをパンの端にかけて出してみ。熱いから気を付けてな」
パンを取り出そうとしたらばーちゃんが布巾をくれた。
言われた通り布巾を焼けたパンにかけて下の熱いところに気を付けてパンを出す。
さっきのパンより柔らかい色に焼けている。
再びそっとかじろうとするが、ばーちゃんがストップをかける。
「ちょっと貸して。ばーちゃんとはんぶんこしよう」
そう言ってさっとパンを裂く。
表面のカリっとした部分とはまた違う白くほかほかの部分が目に入る。
ばーちゃんはその白い部分から食べる。
真似して食べる。
「やらかいやろ?」
その通り。ふわふわでおいしい。
表面もかりっとしておいしい。
これは嫌いじゃない。というかいくらでも食べられそうだった。
そしてそのパンを持って帰って迎えに来た親父殿の車で帰宅した。
翌朝から、自分でパンを入れて5か3の目盛りにして焼いて食べるようになった。
幼児の私は、食パンはおいしいものと理解できた。
ちなみに親は毎回8の目盛りで何回も焼いていた。
つまりカッチカチなのは焼きすぎが原因だった。
8と5と3の話 有桜彩生 @uohsaohh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
やしばフルカラー/矢芝フルカ
★9 エッセイ・ノンフィクション 連載中 15話
夢喫茶でお茶を一杯/ににまる
★3 エッセイ・ノンフィクション 連載中 5話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます