森のつぶやき
深い森の泥沼のような感情に支配され一夜を過ごしました
すでに空は開け目が覚めるような陽光が降りそそいでいます
泥沼の中心で藻掻くこともできずに立ち尽くし
一晩中助けを待っていたのです、
だれかが手を差し伸べるのを待っていたのです
疲れ果て、乾き切った口が紡いだのは救済を求める声でした
わたしはここにいる、ここにいる、ここにいる……
つぶやきの声は森にとけて消えてゆきます
訪れたのは沈黙
やがて静寂のなか、わたしはふと気づくのです
この森にはわたし以外の人がいないのだと
なぜならここは
他人が不可侵の誰もが抱える心の深い森だからです
真実に気づいたわたしは足を懸命に振りあげて
自力で抜けだろうと藻掻きます
鬱屈した感情と戦いながら
深みから一歩一歩と抜け出すように這い出していきます
ようやくほとりに逃れたわたしは天を仰いで、澱みの感情から解き放たれ
自由であることを確信します
一夜のわたしの葛藤は体にへばりつく泥となり
からからに乾いて剥がれ落ちます
古い感情を脱ぎ捨てて自由になったわたしは
そっと静かな森に問いかけます
どうして助けなかったのだ
森は穏やかにこう答えました
最後に絶望した自らを助けるのは、
救いを差し伸べるのは、
自分自身ではありませんか、と。
わたしにはただそれを見守ることしかできないのです、と。
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