お題:目薬・銀行・オートパイロット
はぁ、今日もいっぱい働いたなぁ。
本日の業務をこなし、俺は背伸びをした。
時刻を見れば、午前十時五分。
出社してからもう、一時間五分も経っている。
いやー、よく頑張ったよ俺。うんうん。
さーてと、今日のクエスト消化でもしないと。
「佐藤先輩っ!」
ブラウザを立ち上げたら後輩の後藤が声をかけてきた。
なんだ一体?
「どうした? 後藤」
「どうしたじゃないですよ! 先輩! 今日先輩外回りでしたよね」
「ん?」
そうだが……。
「だからどうした?」
「だから、今日までに一件でも取れなかった先輩クビですよ!?」
慌てて言ってくるけどよ。
はあ、全く後藤は心配性だな。
★☆★
やべぇよ……。
やべぇよ……。
どうしよう。
今日までに契約取るとか昨日の俺は何言ってるんだよ。
バカかよ!
そう簡単に取れないから今日までのびのび現実逃避でブラウザゲーしてたんじゃないかよ!
ああ!くそ!
『絆で♥オートパイロット育成ゲーム』やりてぇよぉ。
今日、イベント最終日なんだよぉ。
俺はそう呟きながらとりあえず気持ちを落ち着けるために廃課金で止まってしまったカードを復活させるために銀行に来ていた。
そうだ。キツいこと言われても俺を支えてくれたあのゲームのために俺はここにいる!
待てよ? 俺はこのゲームに課金してお金を投資しているんだ。
どう考えても契約取ってるようなもんだろこれ!
俺の頭に一筋の道が現れたような気がした。
よーし、そんじゃあ、気合いを入れるためにこの愛用目薬で気合いを入れよう!!
目の疲れを取るために購入して、少なくなったから水で薄めて使用してる。
これが効くんだわ~。
あー、気持ちいぃぃいいいい!!!!
「おい、お前!」
「ん?」
急に怖い感じの声が聞こえて見ると、男が覆面を被って俺にナイフを向けていた。
なーんだ、強盗か。
…
……
………なんで?
なんで強盗さんがいるの!!??
俺が再度視線を向けると強盗と目が合う。
「おいお前! 変な動きするんじゃねーぞ!」
男がそう言って俺に向けたナイフを更に近付けてきた!
ひ、ひぃぃいいい!!!
「さっさと手を上げろてめぇ!」
男がそう言ってくる。
でも、怖くてサァ……。
「さっさとしろ!!」
ひぃ!!
上げれば良いんでしょ、あげればぁ!!!!
俺は咄嗟に手を上げる。
すると、カラーンという音が聞こえた。
見れば、床にナイフが落ちていた。
そして男の手にナイフはない。
……。
「もらったぁ!!!」
俺はそのナイフへダイブ。
コモン武器『強盗のナイフ』を手に入れた!
「ああ、手に馴染むぜぇ!」
「てめぇ! それを返―――」
「おっと、強盗=サン。今は俺が有利だと思わないのかい?」
俺は有利に立った事を確信し、余裕を持った表情でナイフの刃をぺろぺろしながら強盗へこれでもかと笑みを浮かべて見せた。
「ぐっ、ふざけ―――」
「おっとぉ。それと、俺はナイフ技術検定準
俺がそう言うと、顔を
「クソ! 覚えてやがれ!!」
銀行を乱暴に、勢いよく出て、到着した警察に逮捕された。
ふっ、全く―――。
―――すげぇ怖かったよぉ!!
咄嗟にだけどなんだよナイフ検定準四二級って。
しらねーよそんなの!
てかなんでそれで逃げたんだあの強盗。
バカか!? バカなのか!?
だけど、強盗なんてバカしかやらねーよな。
つまり、アイツはバカだったって事だ!
バカで助かったぁ……。
「ありがとうございます! お陰で助かりました!」
「へ?」
見れば、銀行の人達やお客さんから凄く感謝されたような顔で見られた。
なんか、まあ、こういうのも良いよな。
俺は銀行内で感謝感激されて良い気分のまま会社に戻った。
いやー、頑張った後は気持ちが良いな。
「あ、先輩!」
俺の元に後藤が走ってきた。
もしかして俺の武勇伝がもう広がってるのかぁ??
しょうがないなぁ!!
でも、ここでがっついたらかっこわるいしな。
どれ、ちょっとカマかけてみるか。
「おう後藤、どうした?」
「先輩、そんなに機嫌が良いって事は、契約取れたんですか!?」
「え?」
あ、忘れてた。
この日、俺は銀行の英雄になり、無職になった。
そうして俺はバイトで稼ぎながらソシャゲに課金すると言う生活をしてる。だが、そのソシャゲも来週終わってしまうらしい。
悲しい。虚しい。
そんな俺に唯一残ったものもある。
それは、ネットに拡散された『ナイフ検定準四二級の男』という言葉だけだ。
終わるんだよッ!
帰れ帰れ!!
~Fin~
三題噺参加作品 寺池良春 @yoshiharu-t
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