お題:ポーカー、終末、カッター

 私は名探偵チェステイスティングポーカーシュナイダリングだ。

 縮めてティンポシュと呼ぶ者もいる。


 私達は本日開催されるポーカー大会に出場するために呼ばれた。

 決して名前にポーカーが入っているから勘違いされて私が呼ばれた訳では無い。

 私の洞察力を測りたいのだろう。


 そして、これは良い機会だと助手のジョシュアも連れてきた訳だが、事件はその大会中に起こった。


 悲鳴が聞こえ我々がハムカツサンドを咥えながら現場に辿り着くと、そこには血を流し倒している最初の犠牲者の姿が。

 そして第一発見者のハッケンーシャさんがいた。


 事件発生にて大会は中止となったが、ここは孤島。

 電話線は切られ、台風が直撃し、シャンデリアは落ちている。

 この事件、計画的に練られた犯行だと私の、そう私の、そうこの私の頭脳が訴えてくる!


 とりあえず、近くに居合わせた地元お巡りさんの方と共に第一発見者である彼女の話を聞いた。

 彼女の話では、犠牲者となった彼とは面識は無く、トイレに行こうとして発見したとのことだった。


 これは難事件だ。犯人は多数。皆それぞれにアリバイがあり、迷宮入りだと思われた。

 そうしているうちに増えていく犠牲者。


 だが、私はとある事に気がついた。

 そう、それは。


 皆、服の背中が鋭利な刃物。多分、刃物のカッターか? いや、刃物では証拠が残る。であれば、これは水圧カッターにより切り裂かれたと見るのが正しいだろう。そしてそれにより刻まれていたモノ、それはトランプの模様と数。

 その順番を犠牲者となった者の順に組み合わせると―――、


 あとちょっとで完成するロイヤルストレートフラッシュの文字。


 つまり、犠牲者はあと一人。

 そうして色々な犠牲者を出しながら私はある人物の、ある発言で解決の糸口が見えた。

 それは、


 ―――俺、タケノコ派なんだよね。


 そんな言葉だった。

 そして私はそいつを殴り飛ばした。私は生粋のキノコナー故に。

 台風が過ぎたら私は暴行罪で捕まるらしい。だが、そんな粗末なことどうでも良い。


 私は証拠を集め、そして皆を集めた。

 そう、この会場に、大会に参加した者達を。


「皆さんを集めたのは他でもありません。犯人が分かったんですよ」

「犯人が分かった!?」

「誰なんだ犯人は!」

「探偵さん、犯人って」


 皆が私に注目する。

 フフッ、気持ちいい!!

 これだから名探偵はやめられねぇ!


「まあ、落ち着いてください。まず始めに最初に犠牲となった方の事を思い出してください」


 私の言葉に皆がそれぞれ首を傾げつつも思いだしている様子。

 私は、更に付け加える。


「あの時、私達はみな、ハムカツサンドを咥えていましたね?」

「ええ」

「あの時は昼食でしたので」


 ここまで来れば後は一押しですね。


「では、その時、初めて発見したハッケンーシャさんが咥えていた物はなんだったと思いますか?」


 私のこの言葉に、皆さんは、考え込んだ後、ハッとした表情になる。

 そう、彼女は―――


「彼女はあの昼食の場には無かった、ツナマヨハンバーグを咥えていたんです!」


 私の言葉に皆さんはハッケンーシャさんを見やる。

 そんな皆の視線にビクリと怯える彼女だが、彼女は拳を握ると言葉を返してきた。


「だから、なんでしょうか。私にはアリバイだってありますし、名探偵さん言ってましたよね。この被害者の鋭利な傷跡は水圧カッターによるものだって。私、そんなモノ―――」

「メントス・コーラ」

「ッ!?」


 往生際の悪い彼女に私は突きつける。凶器を。凶器となったモノを。


「貴女はメントスコーラの勢いを利用し、蓋に小さな穴を開けることで、水圧カッターとした。違いますか?」


 私は証拠として押収していた500mlペットボトルと穴の開いたキャップ、そして、彼女の鞄の中から出て来たメントスを見せる。その言葉と物品の数々に、彼女は唇を噛みしめ、そして崩れ落ちた。


「そうよ、私がやったの。許せなかった。許せなかったのよ! こいつら、皆、目玉焼きにはソース以外認めないとか、シチューをご飯にかけるなんて御法度だなんて、そんなの人の好きにすれば良いじゃないって! 私、我慢出来なくて……」


 彼女は泣いた。

 彼女にもこの事件に踏み切った理由があった。

 だが、踏み出してはいけない一歩を彼女は踏み出したのだ。

 これがこの悲惨な事件の終末。

 いや、顛末か? まあいい。


 そんな事を考えていたらお巡りさんに手錠をされた彼女と目が合う。


「探偵さん、一つ聞いても良いでしょうか?」

「なんでしょうか?」

「良く私だって分かりましたね」

「それは彼等のお陰ですよ」


 見せるのは彼女の持っていたメントス。

 その行為に首を傾げる彼女。

 私は付け加える。


「食べ物で遊ぶな。親から習いませんでしたか? 食べ物の恨みは怖いんです。だから、メントスこの子が事件解決の手助けをしてくれたと言っても過言ではないんですよ。貴女のように自由に食事を楽しむのも大事ですが、ポリシーを持って食するのもそれはそれで良い物です。まあ、行き過ぎはダメですけどね」

「流石は名探偵さんですね。それでは―――」


 彼女はお巡りさんに連れられて、連行されていった。

 今後、この様な事件がない事を祈るばかりだ。


 ―――カチャリ


 私にもはめられる手錠。


「……お巡りさん、なんのマネですか?」

「言ったじゃないですか。暴行罪で捕まえますって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る