お題:砂浜・魚・天使

 学校終わり。

 俺はいつもとは違うルートを歩いていた。


 自宅とは正反対の道を。


 この時の俺は多分、何も見えず、何も考えられなかったんだと思う。

 人生上手く行かない事、少しショックなこと、イメージ通りになんて行かないこと、色々あるけれど、それが重なってしまうと、嫌になる事がある。


 全てを投げ出してしまいたくなる。


 だが、必死にそれに耐えてきた。皆だってそうなんだから。親にも先生にもそう言われた、から。


 けど、最近、分からなくなる。

 俺はどうしたいんだろう。

 それが、分からなくなっている。


 親に言われて良い高校に進んだ。それには親も喜んでくれた。

 友人も少ないけれども出来た。

 普通に考えれば良い事だ。

 けど、最近、高校の勉強についていけてない。親は成績が芳しくない事を危惧して、塾にも行かせてくれた。

 だが、それで友人と遊ぶことも減り、最近は学校で挨拶をする程度の仲になってしまった。


 ふと立ち止まった。

 見えるのは降りている遮断機。聞こえるのは頭に響くくらい高い踏切の音。

 普段から誰もいない、雑草が所々伸びているこの場所。


 遠くには電車が見える。

 その電車は速度を緩めることなく踏切へと近付いてくる。

 そうして俺は、その遮断機の向こう側へと―――


「あ! 君!」


 聞こえた声に反応してしまい、俺は止まってしまった。


 ―――人?

 そう考える俺の前をけたたましい音を奏で電車が通り過ぎていく。


 声がした方を振り向くと、そこには同い年くらいかの少女が立って俺の方を見ていた。

 着ている制服的に他校の生徒のようだが。


「危ないよー。電車来てるんだから進んじゃダメだって」


 その少女は馴れ馴れしく俺に話しかけてきた。

 誰なんだ。

 俺が訝しげに見ているのにも関わらず、少女は俺に近付いてくる。


「って、言っても君は進んじゃうんだよね。ここに来る人は皆そうだし」


 少女はそう言うと、何かうんと頷いた。


「ねえ、君」

「……なんでしょうか?」

「ちょっと最後の頼みだと思ってさ、私に付き合ってくれない?」


 少女がそう言ってくる。なんで見ず知らずの俺を?

 そう考えたが、今から居なくなろうとしていた俺だ。

 なら最後くらい良いかと、俺はそう考えていた。

 俺が返事をすると、少女はじゃあついて来てと踏切に背を向けて進む。


 俺はその後をただただ着いていった。


 どれくらい歩いたのかは分からないが、少女が立ち止まる場所まで行くと先程の景色とは一変し、俺の足元は砂地の地であり、大きな水平線の先には赤く染まり、海に沈みかけている夕日が見える。

 その様子は、多分綺麗だったと思う。


「君が何で悩んでるかは私は知らない。けどさ」


 唐突にそう切り出す彼女。


「残された方は、―――なんともいえないよ」


 少女は振り向いて俺の方を見やる。


「残された方……?」


 俺はふとそんな事を口走ってしまった。


「私のお父さんも、あそこで、ね」


 少女はそう言って寂しそうな表情をまた夕日の方へと向けた。

 その答えに俺は何も言えなかった。

 というか言っても良いものだろうか?


 心の中ではそう考えていたのだが、


「それとなんの関係が」と彼女に言ってしまった。

 多分、言っちゃいけない言葉だとハッとして口を紡ぐ。

 だが、時既に遅し。彼女は少し表情を暗くしていた。

 自分でしてしまった空気感だが、どうしようも出来ずに俺も黙ってしまう。


 それを変えたは、彼女だった。


「確かにね。でも、私は―――、残された側からしたら、あんな事はもうごめんだから。大好きな人なのに突然居なくなって、姿形も、その人の物も残らないのは辛いんだよ?」


 少女のその言葉に、俺の頭の中には親との楽しい記憶や友人との笑っていた記憶が蘇る。

 俺は、自殺しようとしていた考えが恥ずかしいと思えた。


「だから、そんな事、出来ないように、君を私のお気に入りのここに連れてきたんだ」


 彼女はそう言って微笑む。

 それは夕日に照らされてとても綺麗に見えた。


「なんで、見ず知らずの俺を?」


 俺がそう問いかけた時だった。

 俺の額に何かがぶつかってきて、後ろに転んでしまった。。


 それにより俺は言葉を途中で切ってしまう。

 何がぶつかったのだろうと見れば、そはトビウオ。


 なんでトビウオが?


 そう考えていたら彼女が「大丈夫?」と話しかけてきた。

 大丈夫と返答し、俺は立ち上がると彼女は少し笑っていた。


「トビウオも、自殺はダメだぞって言ってるのかもね」


 少女のその言葉に、俺も少し笑ってしまった。

 それから俺は暗くなるといけないからと彼女と別れた。


 その際、彼女から「また自殺したくなった時、私がトビウオ連れて行くから、連絡できるように連絡先交換しよ」と提案してきた。


 俺等はこうしてちょくちょく仲良くなって、二人で、いや、今俺等の間にはもう一人居るわけだから、三人で暮らしている。

 あのトビウオは、恋の天使だったのかもしれない。


 ……あり得ないか。


 終わり。


 ☆


 ちなみに、トビウオとはアゴとも呼ばれて出汁にしても美味いぞ。

 あと、海で襲われた際に胸びれを広げて海中から飛び出しグライダーの様に飛ぶことで最大400mもの距離を飛翔出来るようになり、マグロやその他の敵から逃げるように進化した結果、飛翔中にトンビに襲われることが増えましたとさ。


 もしかしたら、あの時のトビウオはマグロに追われた可能性も考えられると専門家は分析する。


 だが、主人公がいる場所は浜辺だと考えるとそこまでマグロが来ることはあまりないため、考えずらく、これは生物学的な話ではなく文学的な幻想の話だろうと専門家は語った。


 それよりも、イラつくからって海釣りで針に掛かったフグをポイ捨てするな。

 彼奴らはお前等の娯楽のために生きてるんじゃねーんだ!


 あ、そうそう。ハリセンボンってそもそも天敵居ないのに膨らんで威嚇すると、元の姿に戻るのが苦手らしくてそのままだと波に抵抗出来ずに浜まで流されて死んじゃうらしいよ。

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