お題:同棲・メール・親友

俺は考える。

友人から送られてきたこのメールについて。


そこに書かれているのは何度見ても変わる事は無い文字。


『どうしよう。女の子になっちゃった』


そんな奇妙な一文がのせられているだけのメール。

今日は四月一日。つまり綿抜の日エープリルフールかどうかを疑い、カレンダーを見たけれどもいやはやどうして、五月三日じゃないか。


さて、今日が違うとなればこれはなんだろうな。


全く分からねーぜ。とりあえず、親友に返信しよう。


『とりあえず、落ち着いて。確認のため、とりあえず全体写真と、おっpの写メくれ』


これでいいだろう。

これで奴が本当にどういう状況なのか分かるはずだ。


そうして俺が送って数分後、携帯電話が鳴り、俺は一瞬でメールに添付されている写真を見やる。

うむ、確かに写真に写っているのは奴の部屋。そして、可愛らしい顔立ちの美少女と、豊満な果実と綺麗なピンクで―――。




いや、奴は親友。唯一無二の友人だ。

決していやらしい目で見てはいけない。そんな決まりなど無い!!


『間違いないようだな。さて、どうしてそうなったのかを説明してくれないか?』


俺は張られてしまったテントの上を少し腕で押し返しつつそうメールを返す。

というか通話で良くないか? とも思ったが、なんかメールで返してしまう。

俺って律儀だな。


そうして数分待ち、返信が返ってくる。


『分かんない。どうしたら良いんだ』


どうやら混乱しているようだ。

こんなに悲しそうなメール初めてだ。

仕方無い。俺が、俺が立たせてやるか!


『とりあえず通話しようず』


そうして俺は送ると同時に電話をかける。

何回かコールが鳴り、電話を取る音が携帯の先から聞こえる。


「もしもし、俺だ」

「どうしよう、僕、どうしたら」

「まず考えるのは後だ。どういう状況なのか、確認したいから来てくれ」

「分かった」


そうして電話が切れる。

奴が来るまで約二十分。


俺は、俺たちは立ち上がる。

全く、俺の俺は立たなくて良いというのに。


だが、そんな事よりも、だ。


お部屋片付けないと!


これから来るのは奴。俺の親友だが、今は見た目は豊満、いや、芳醇の美少女だ。

汚かったらなんか言われそうだし。


そう思い、俺はとりあえず部屋を掃除する。

そして身を清めるためにシャワーを。


ぴんぽーん。


その音で俺は止まった。

何が起きた?

片付けをして五分しか経っていないはず。

なのに、家のチャイムが鳴る、だと……?


その事に頭が二分される。


早く会って安心させてやりたい俺と

それよりもまず身を清めたい俺と

そり立つマイSOOOOOOOON。


どうする? どうすれば良い?

考えろ。考えろ。俺、感じるんだ俺。

俺は何をすべきかを!


そうして俺は、玄関のドアを開けた。


「あ、わたくし、カガワと申します。今、春先キャンペーンで新生活をし始めた方限定で我が社の新聞と宗教と受信料についてのお話を―――」

「おととい来やがれってんでい! 親友が来るから今の俺は超忙しいんじゃい!」


全く、信じられない!

俺の予定を狂わせるなど!

恥を知れ! れ者が!

そう思い、玄関にちゃっかり入ってきた勧誘の痴れ者をガムテープでグルグル巻きにして窓から投げ捨てドアを閉める。

全く何を考えてるんだ。人の都合は考えられないってか?


「さてと、これでゆっくり」


身を清めようとした俺の耳に再度チャイムの音が。

それに反応して俺は時計を見やる。

時刻はあれから二十分が経過していた。


あのクソ痴れ者がぁぁぁああああああああ!!


だが、そんなことは言ってられない。

親友が困っているんだ。


俺は玄関のドアを開けると、そこにはおどおどした様子で若干涙目になりながら立っている親友がよく着ている服を着た美少女の姿。

うん、そうだな。



「とりあえず上がれよ」

「うん。ありがとう」


俺はそう言って親友を部屋に上げる。

だが、いつものノリと違うのが凄くこうなんて言うか緊張する。

俺のテントも張り詰めている。


全くこれだからDTは。


「それでとりあえず、そこに座って経緯を教えてくれないか」


平静を装い話を切り出すが、なんだこのこいつを入れてから部屋に漂い始めた匂いスメル

まるで良い香りの匂いだ。

どこから漂ってくるんだ。あ、お隣の佐藤さん家かぁ~。


「うん、えっと。昨日、渡してくれたよく眠れる薬を飲んで寝たら、今朝こんな事になっちゃってて……」


昨日渡してくれた薬?

んー? あ。


「あれか?」

「うん」


俺はちらりとその渡した薬の方を見やる。

そこにはしっかりと夜ぐっすり眠れるお薬と書かれた白い粒が描かれたパッケージの箱と、その横に置いてたはずの治験用試供品の性転換薬(永遠とわ用)が無くなっている事に気付く。

うん、そうだな。間違えたな。


「なんかごめん」

「え?」


俺は正直に事の顛末を話した。

そして、殴られた。

痛いよママァ!


「とりあえず、息子が追加付与される治験用FTナーリ薬あげるから許して」

「許すかぁー! ばかぁー!」


ああ、可愛い子に泣きながら言われちゃったぁ!

んぎもちいいいいいいいいい!



それから俺は、世間体的に女子の一人暮らしはマズイと思ったので親友と話して元に戻るまで一緒に住む事にした。

そうつまり同棲だ!

そうして俺は今、親友、いや妻と共に子供達三人に囲まれて幸せな暮らしをしている。


全く良い人生だった!


でも、一つだけ心残りがある。それは、


なりたかったなぁ! 両性具有に!


なんで製薬会社に性転換薬は上手くいった報告したのに、『今回は事故だが、故意にそうやって使う奴がいる』からダメって事になったんだよぉ!!

ばかぁ!


あ、ちなみにFTナーリ薬もちゃんと大丈夫だって治験も出来たよ。

俺の自慢の娘に立派なものが生えた。全く、羨ましいぜ!


★☆★


本日未明。

製薬会社に勤める男(三八歳)が治験薬を家族に故意に使用し、尊厳を破壊したとして逮捕されました。

調べに対し男は、「とある治験薬を買うためにお金が欲しかった。お金が手に入ればなんでも良かった」と話しているという。

それに対して専門家は、「仕方無いね♂」と見解を述べている。

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