お題:異世界、ベッド、小鳥
「小鳥のように可憐なお嬢さん。今日は僕とパーティーを組まないかい?」
冒険者ギルドで内で聞こえるその言葉に頬杖をつきながら私は眺めていた。
そこでは最近ギルドランクが上がったらしい、まあ顔はイケメンなそいつとそのお付きが新人冒険者であろう少女のグループに話しかけている。
少女達は困ったような、でもまんざらでもないような表情でそいつらと話している。
完全に口車に乗せられそうになっている彼女ら。だが、そうやって泣いて帰ってくる者を何度も見てきた身としては助けた方が良いんだろうが、最近の彼奴らの勝率は低いから助けなくても良いだろう。
「おじさん、
すると、突如として
神々しくも輝く頭にはどこから調達したのか青と緑の鳥の羽をつけ、太い両腕には黄色い羽を集めて作ったような羽を装備し、後は何も身につけない産まれたままの姿でそこに立つ。
途端、少女達は悲鳴を上げてその場から立ち去ってしまった。
無理もないだろう。
筋肉はあるが中年太りの肉体を持つオヤジがそんな格好で目の前に現れたら。
「またお前はー!」
と、そんなオヤジに対してそいつは怒りを露わにし、付きの奴等も怒っている様子だが、オヤジは気にもとめずにポージングを色々決めながら先程何故少女グループが逃げ出してしまったのかを考えている様子だった。
そうして、
「分かったぞ! おじさんの肉体美が上手く表現出来ていなかったからだ!」
そう結論に至ったオヤジは右手をピンと伸ばし、左手は少し曲げた常態で背筋を伸ばし、器用にもその常態を維持したまま足だけを動かし常人が走るよりも速くギルドを後に―――
「ちょっとやめて下さい! スンダールさん!」
ギルド職員に羽交い締めにされていた。
だが、オヤジも抵抗する。
「ええい! 離せ! おじさんはおんにゃのことベッドで遊びたいんだい!」
「あの子達がここに来なくなったらどうするんですか!」
「それは、―――困るな」
真面目な口調で暴れるのをやめたオヤジに、職員はふうと一息。
「それにしても、スンダールさん。その身に付けてる物って」
「ん? ああ、これか? 今日の狩りがてらに獲ってきた物だぞ」
「
「え? そうだけど? 薬草採取のクエストついでに」
「流石はドラゴンも裸足で逃げ出す冒険者。つよつよクソオヤジと愉快な仲間達のリーダー、スンダールさんです。そちらは今から換金なさるのですか?」
「え? あー、換金する換金する。使用済みだけど」
「そうですか。それは―――、使用済み?」
「いやさ、この青い羽根がさ、俺のアソコを擦った時凄く気持ちよくてな。つい倒した後に一発、な?」
その言葉に引く、職員と周りで少し盛り上がりムードになりかけていた冒険者達。
それでも換金をするとギルド内にある素材換金所に向かおうとするオヤジを止める職員と冒険者。なぜかって言ったら今そこにいるのはギルド内で一、二を争う程の人気受付嬢がいるからだ。
というか、換金の話になった時、ちらっと換金場所見て確認してたから確信犯だろう。
全く、あのオヤジは。
「スンダール、また衛兵の世話になりたいのか?」
静止を促す私の言葉に、スンダールは
「美人衛兵ちゃんの時にならなりたい!」
頭だけではなく目も輝かせている。
全く、本能で答えてやがる。
そんなオヤジの様子に周りも呆れていたり唖然としている。中には賛同する者がいるが、あれは例外だろう。
「ほら、そんな事言ってないで行くぞ!」
「あ、ちょっと。タルル! 待て! 換金してない! おじさん、まだ換金してない! 薬草採取達成のお金しか貰ってない! 宿には泊まれるけど、遊びに行けない!」
「それは、―――お前の自業自得だろう」
「ああー! おじさんのお金ー!」
騒ぐオヤジを連れて、私はギルドを後にする。
そうすればこいつはすぐに切り替えるのを知っているからだ。
そうしてこのオヤジと共に仲間の待つ宿へと向かう。
「ちょっと、そこのスンダール! 服を着なさーい!」
途中で、頑張りながらよくこのオヤジにセクハラされる衛兵ちゃんに出会い、また暴走しかけているがそれを強制的に連行し、宿へと戻る。
「そんじゃ私は皆の待つ部屋に戻るから」
「おう、じゃあまた明日~」
半裸、というよりほぼ全裸で手を振り歩くスンダールの背を見送り私は部屋へと戻る。
部屋では魔法使いと僧侶が待っていた。
「タルル、お疲れ様です」
「ああ」
「その様子だとあのバカ何かやらかしたわね?」
「いつもの事だ」
仲間達に素っ気ないがそう返して、疲れたからと私はベッドへと倒れるように横になる。
ベッドの枕に顔を埋め、今日の事を思い出す。全く本当に―――
「―――本当にあのバカは」
私は手にした素材を換金した金の入った袋を握りしめて呟く。
異世界、シェオルンド。そこでは様々な生き物が息づきさらに魔物と呼ばれるものも息づきそれに対抗するため冒険者がいる。
今日も今日とて冒険者は生活のために、人のために、そして己の為に魔物と戦っていく。
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