お題:昔話、リボン、チョコレート

 明日は待ちに待ったバレンタインデー。私の思いを伝える素敵な日。

 クラスの皆は色々な料理本を参考に兵器お菓子を作り、明日の戦争バレンタインデーに備えるだろう。

 しかし、私は違う。そう! あげる菓子などチョコが入っている物と相場が決まっている。

 だからあげる物は溶かしたチョコを固めた物で良いのだ。

 で、私はどうするのかというと、あげる物では無く、渡し方を考える方に徹するのだ。


 そこで私のバイブルは、これだ。

 そう! 全国の少年達が好きな話であり有名な物。


 桃太郎ッ! 浦島太郎ッ! そして、古今和歌集だッ!!!


 そうして私はチョコをとりあえず作り、明日のバレンタインデーに向けてイメトレをする。

 まずは桃太郎作戦。それがダメなら浦島太郎作戦。それでもダメなら古今和歌集。


 そうしてチョコを作り終えた私はベッドに倒れ込む。

 フフフ、ああ、待ってなさいよ。私のハートを射止めたド畜生男め。



 ☆☆☆



 翌朝、私は家を出る。

 さあいざ決戦の舞台学校へッ!!!


「いってきまーす!」

「いってら―――……。綾、待ちなさい。それ持ってどこに行こうとしてるの!?」


 と、お母さんに止められた。私は忙しいというのに。


「学校だよ?」

「学校にどうしてそれが必要なのよ」


 何を言ってるんだろうか?


「お母さん、今日はバレンタインデーなんだよ?」

「え? あっ!?」


 私の言葉にお母さんは口元を抑えた。

 あの表情から察するに、忘れていたらしい。全くもー


「綾、という事は気になる子にあげるのね?」

「勿論」

「そう、なら何も言う事は無いわ。頑張って」

「うん! ありがとうお母さん」


 そうして私は歩みを進める。ふふふ、さあ私の思い受け取らせてやる!!


 という事で学校に着いた~!

 ふぃー、さぁてと後はあの私の心を射止めたド畜生男にチョコを渡して気持ちを伝えるだけやな。


 って、凄い下駄箱にリボンとか付いてる箱がたくさん入ってる奴いるー!?

 いつも思うけど凄い人気だな。まあでも、あれは私の好きな人じゃないから良いや。


 それよりもどうやって彼に近付くかだな。

 どうすれば良いのか。うーむ……。


 って、考えてたら教室に着いちゃった。

 仕方無い。ここはプランBで行こうッ!!!

 そう思って教室の戸を開けると、案の定というか毎年見る光景が目に入る。

 きゃーきゃー騒ぐ女子と、皆にイケメンスマイルを振りまきながらチョコ貰ってる奴。


 そして、


「凄いね。今年も沢山」

「うん。正直あそこまでいくと羨ましいを通り越してちょっと怖いよね」


 チョコだかリマンの後ろの席で私の好きな人と話してる顔面美少女男の姿が。

 近年では男の娘とか言われてるらしいけど、私より可愛いとかふざけんな。


「そういやリョウタはチョコ貰った?」


 とぉ、顔面美少女男がド畜生男にそんな話題を。

 気になるじゃ無いか。気になるじゃ無いか!!!


「いや、別に。というか毎年貰ってないし」


 行くなら今しかねぇー!!!唸れ私のビッグウェーブ!!!!


「あ、リョウタ、チョコ貰ってないのー?」


 完璧なタイミング。フフフ、勝利の女神は私に微笑んだな。


「急にビックリした」


 いや、顔面美少女男。お前にゃ用はねーんだわ。


「おはよう綾さん。今日も元気ですね」


 そうそうそっちなんよ。


「いやさぁー、今日バレンタインじゃん? だから練習でチョコ作って見たんだけど作ってたら楽しくなって沢山作り過ぎちゃって余ってるんだよね。リョウタあげ―――」

「分かります。お菓子作りとかやると楽しくなりますよね」


 ん??? あれ? 思ってたのと違う反応。

 そこは桃太郎の三匹の下僕の如く、くれくれワンワンケンケンウホウホ言うところでしょ?

 あれれ??


「え? そんなに余ってるなら僕にも頂戴よ」


 作戦失敗にポカンとしてたら、顔面美少女男が。

 はは、冗談は顔だけにしろ

 いや、これは想定済み。地味に一筋縄ではいかないのは世の常。次は玉手箱ドッキリ大作戦だ!!!!


「リョウタ、これよ。ほら」


 そうして取り出したるは渾身のラッピング。そして小さい箱詰め。

 ククク、実は浦島太郎は表向きで実は舌切り雀だとは思うまい。


「へー、意外。綾、いつもがさつなのにこういうの出来るんだ」


 うるせぇ!!!顔面美少女男!!!!


「姫希、失礼だよ。ありがとうございます」


 ちょっとプッチンなりそうになったけどそこは私の心がプリン並に柔らかく広かった事に感謝しなさいよね。


「で、綾。僕の分は?」

「それで全部だから無いよ」

「ええー? もしかして作りすぎてとか、リョウタに渡すための口実?」

「はっ! そ、そそそ、そんな訳なかとですばい。ぎ、義理よ義理。ギリギリの義理!!」

「ギリギリの義理って何?」

「はは。まあまあ、それより綾さんありがとうございます」


「ふっ! 良いって事よ」


 こうして私は無事にチョコを渡せた。

 まあ、私にかかればこんなもんよね。最悪、自分にリボンを巻いてまでは考えてたけども―――

 さぁてと、ホワイトデーの返事期待してるぜ。


「ただいまー」

「あ、お帰りー。ところで綾ー」


 靴を脱いでる私にお母さんが。一体何だろう?


「んー? なーにー?」

「なんか名前書いてるチョコ冷蔵庫に入ってたけど?」

「え?」

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