お題:月、鱗、友達

 お月様が綺麗な日には素敵なお友達に会える。

 ボクは窓からお月様を見ながらぼんやりその言葉を思い浮かべていた。

 これは病気でお星様になっちゃったお母さんがお星様になる前に教えてくれた言葉。

 だからボクはずっと晴れてる夜は綺麗なお月様を見るんだ。


 お母さんがいなくなっちゃって、お父さんも帰ってこなくなっちゃったけどお母さんの言っていた素敵な友達が会いに来てくれるかもしれないからボクはずっと見てる。


 でも、いっつも素敵なお友達は来なくていつの間にか朝になっちゃうんだ。

 でも、朝になるといっつも綺麗なお星様がボクが寝ちゃった枕の近くに落ちてるんだ。

 だからきっとこれが素敵なお友達なのかなって―――


 コンコン……


 そう思ってたら誰かがお家のドアを叩いたみたい。

 もしかして素敵なお友達かな!?


 そう思ってボクがドアを開けるとそこにはボクよりちょっと大きいくらいの女の子が立ってた。

 でも、ちょっとボクとかお母さんとお父さんとは違ってて背中にお羽がついてるんだ。

 まるで鎮魂祭の時に付ける仮装みたい。


「こんばんは。初めまして。素敵なお友達だよ」


 女の子はボクにそう言ってくれた!

 本当に来たんだ! 素敵なお友達!


「いらっしゃい!」


 ボクは女の子をお家に入れて、のように一緒にテーブルを囲んだ。

 そのテーブルにはボクが作ったお料理が並んでる。もしかしたら今日は来るかも知れないと思ったからね。


「今日も来ると思ってお料理したんだよ!」

「わぁ、美味しそう。」


 女の子はそう言ってボクが作った料理を口に運んだ。

 もぐもぐと食べる女の子は


「美味しいね」


 笑ってボクにそう答えてくれた。

 その言葉にホッとする。美味しく出来て良かった。


「だって教えてくれたからね」

「そう、誰に教えて貰ったの?」

「え?」


 そういえば誰に教えて貰ったんだろう?

 うーん、思い出せないけどボクは教えて貰ったんだけどな。


「思い出せないの?」

「うん」

「そうなんだ。でも、きっと教えてくれた人は傍にいた人なんじゃない?」

「たぶん」


 多分そうだと思う。

 じゃなかったらボクに教えてくれる人なんていないし。


「そういえば今日はお話聞きたい?」

「お話?」

「そう。素敵なお友達の素敵なお話」


 なんだろう面白そう!


「聞きたい聞きたい!」

「それじゃあね。ひとりぼっちの男の子のお話してあげるね」


 女の子はそう言ってお口を開いた。



 ☆☆☆


 あるところに一人の男の子がいました。

 男の子は一人ぼっちですけど、寂しくありません。だってお友達に出会ったんですから。


 そのお友達は不思議な不思議な素敵なお友達。

 毎日会いに来ては男の子と一緒にお話しする素敵なお友達。

 男の子は毎日来るその素敵なお友達とお話しして、色んな事を教えて貰いました。


 男の子は今でも―――


 ☆☆☆


「―――寝ちゃったね」


 私の目の前。テーブルの向かい側に座る彼はすやすやと寝息を立てている。

 全く、毎回ベッドに運ぶこっちの身にもなって欲しいものだ。

 そう思いつつ彼を起こさないようにベッドへと運び布団を掛ける。


 そのあどけない寝顔を見ていると、やはり心苦しいな。


 私はそう思いながら彼の前で指を振った。


 ―――今日の素敵なお友達との思い出は無かった事に。


 いつものようにそれが当たり前のように私はそうして家を出る。


 人の姿とはなんとも窮屈だ。

 私は本来のドラゴンの姿へと戻る。


 こんな事が罪滅ぼしになるとは思えぬが、弱き小さな者が独り立ちするまでは。


 私は前足に持ったペンダントを見やる。

 そこに映る三人の人間。二人は成人で一人は赤子。

 本当。何が素敵な友達だ。


 彼にとって私は、親の敵。―――素で敵なのにな。


 私は憎らしい程、明るい月を見やった。

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