第18話お爺さん
店内は、静かで落ち着いた雰囲気があった。
お爺さんは僕の存在など気にも留めずに新聞を読んでいたし、僕も木製のテーブルに肘をついてスマホを開いて、ニュースや漫画を読んだりして、料理ができるまで、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
そんな感じで10分程したぐらいだろうか。
ふと、お爺さんが新聞を読むのを止め、折り畳んで、思い出したように僕の方を見て言った。
「……金はちゃんと払えよ、小僧」
「――ッ。お、お金はちゃんと持ってますよ……先に払いましょうか?」
一瞬、ムッとしたけどこの辺りはあまり治安が良くない、って聞いたから念のために聞いたのだろう。
僕はそう思い、ズボンのポケットから財布を取り出して、代金分をお爺さんに支払おうとしたが、
「そうか、ならいいわ。最近、食うだけ食って、金払わない輩が多いからな……。ま、お前さんは顔からしてそんなワルできるタマには見えん。……すまんな」
「い、いえ……。僕の方こそすいませんでした……」
僕の顔をシミジミと見つめて、お爺さんはそう言い、頭を下げた。
僕は、その意外な行動(第一印象が無愛想だということもあって、謝罪されるとは思わなかった)から、動揺して、つられて僕も頭を下げて、変な事を口走ってしまった。
お爺さんも、その言葉が頭に引っ掛かったのか――、眉をひそめた。
「……あ? どうしてお前さんが謝るんだ?」
「それは……僕が中学生で……だから……」
素直に言わなくいい情報を漏らしてしまった。
言った瞬間、後悔したが、
「そんな事で謝るな。やっぱり真面目さんか、坊主。別にワシは中坊がそんなことぐらいして気にしてないわ」
しょうもな、と付け加えてお爺さんはもう一本タバコを取り出して、火をつけ、
「金さえ払えば、ワシは何も言わん。金さえ払えばお客様やからな」
「お客様、ですか」
僕の行為を非難するわけでもなく、肯定するわけでもない、不干渉の立場を示したお爺さん。
僕は何とも言えな複雑な気持ちに包まれた。
それがそのまま顔にも表れていたのだろう。
お爺さんは、ボソッと僕にしか聞こえないぐらいに、声を落して
「……まあ、君子危うきに近寄らず、って言葉もあるがな」
「え?」
「知らないならいい。どうせ、坊主には縁がない言葉や」
「は、はぁ……」
今なら少しだけ分かるが、この時、お爺さんは警告してくれていたんだと思う。
危ない目に遭いたくないなら、大人しくするべきだというーー。
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