第17話ホワイトダッグ


家に居たくない。


一人っきりで家にいるのは耐えられない。


ひと月もすれば、僕は繁華街の人込みに吸い寄せられていた。


とはいっても、僕は中学生。


行く場所は限られている。


その日も僕はどこで今日は過ごすか悩んでいた。


閉店間際まで立ち読みしていた本屋も閉まって、次はどこへ行こうか……。


あてもなく、ブラブラと徘徊して――。


駅のすぐそばに隣接する商店街の一角にある古びれたレトロな喫茶店――『ホワイトダッグ』。


僕と黒川さんが出会った場所。


初めは店の中に入る気など、全然なかったけど、店を横切るときにちらりと中の穏やかな雰囲気に惹かれて、思い切って入った。


カランコロン


ドア鈴の音と共に、暖簾をくぐり、僕は改めて店をぐるっと確認した。


ほの暗い灯りで店内が包まれ、6つほどある席に生憎その時はお客さんの入りが悪く、誰もいなかった。


奥に、新聞を広げている眼鏡をかけた店長と思われるスキンヘッドのお爺さんだけが、席に座っていて、僕の方をじろりっと眼光鋭く、


「いらっしゃい」


「あ、あの……」


お爺さんが僕を見て、眼鏡をテーブルに置いて声をかけてきた。


そして、腰を押さえて、「何やこんな時間にガキか。まあええわ。適当に座んな。注文は何にする?」と、壁に貼ってある所々破れかけているメニュー表を指さして聞いてきた。


「じゃあ、アイスコーヒーと卵焼きで……お願いします」


「今から作らせるから15分はかかるけど、ええよな?」


「……大丈夫です」


少し高圧的なお爺さんの態度に、ちょっとだけ気後れした返事をかえしてしまったが、紙切れにボールペンで注文を走り書きをして、お爺さんは店の奥に消えた。


奥から「卵焼き一個、アイスコーヒー一個」と他の店員に伝える声がしたかと思えば、すぐに帰ってきて、また元居た席に腰を気遣うように座り直し、僕がいることなど全く気にしないで、新聞を読み始めた。


そして、しばらくすれば懐を探るような仕草をしたかと思えば、ポケットから煙草を一本取り出して、ライターに火をつけて、スパスパ吸い出した。














  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る