第16話私に付き合って
その後も、一方的に黒川さんが話して、僕が適当に相槌を打ったり、軽く返答するという形で立ち話をしていたが、動かずに同じ姿勢を保つのはきつかった。
眠気がさらに押し寄せてきて、瞼が重くなり、黒川さんが何を喋っているかあやふやになり、聞いているフリをしていた。
「でねー。私、ジュースとその店の代金払って…………ねーもしかして巧君……寝てない? 私の話聞いてない?」
「!」
バレた。
身体がビクッと反応し、一気に眠気が吹き飛んだ。
「き、聞いてましたよ」
「嘘ー。じゃあ、私が何言ってたか言ってみてよ!」
「それは……」
「やっぱり寝てたんだ」
悲しそうな声で、細目で睨みつけてくる黒川さん。
だが、どう言葉を見繕えばいいのか思案したが、こういう時何を言えばいいのか、見当もつかない。
(……謝ったほうがいいな。)
「えっと、その……すいませんでした。寝かけてました」
「立ったまま寝るなんて、相当私の話聞きたくなかったんだ!?」
大袈裟に口を覆って、「ワオー」とオーバーリアクションをとる黒川さん。
「い、いえ。まだ今日僕寝てないんですよ。さっきまで高…いや友達の家でゲームしていて……ここに居るのも今ソイツの家から帰っている途中で…」
あまり呂律が回っていなかったが、黒川さんは僕がそこまで言うと、真顔になり、
「楽しかったの? それって?」
「まあ…」
「フーン。遊ぶなら私の所に来ればよかったのに……次からは止めてよね、聞くフリするなんて。恥ずかしいじゃん」
「はい」
「でももういいよ」
頭を下げて、謝罪の言葉を口にすれば、案外簡単に許してくれた。
普段の黒川さんを知っている僕からすれば、妙に不気味だが、すぐにその原因は分かった。
「じゃ、今貸し一つ貸したって事でーー今度は巧君が私のお願い聞いてくれるよね?」
「へ」
さっきの哀愁漂う雰囲気はどこへやら。
コロコロ表情が変わる人だ。
掌をくるりと返すかの如く、ハスキーボイスの甘えた声で黒川さんは続けて言った。
「今日は、その友達の所に行くんじゃなくて、私に付き合ってよ?」
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