5.フリーラスからの刺客。
――その日の夜。
学園の一室には、一人の男子生徒が招かれていた。
テーブルを挟んだ向かいのソファーにはフリーラスが腰掛けており、彼はその男子生徒にも座るように促す。そして、着席を確認するとニヤリと笑った。
「よく来てくれたね、ウィリス・ランドロスくん」
そして、その男子生徒――ウィリスの名を口にする。
長い金の髪に、鋭い青の瞳。紺の制服に袖を通すその身は一見して細身だが、露出した腕の筋肉はしっかりとしており、たくましい。
王都の中でも、有数の貴族の家出身であるウィリス。
王都立魔法学園においては、剣技の成績で最上位を獲得していた。
「いえ、いかがなされましたか。フリーラス先生」
「少しね、困った学生がいまして……」
「困った学生、ですか?」
「あぁ、そうだ」
背筋を伸ばしたウィリスに、嫌らしい笑みを浮かべたフリーラス。
対照的な二人。しかし、次の一言が大きく状況を変えた。
「アイン・クレイオス――キミも、その名前は知っているだろう?」
「――――!?」
アインの名を聞いた瞬間、ウィリスは眉をひそめる。
そして、息を呑んだ。
「いやいや、本当に困った学生だよ。辺境領主の息子という卑しい身分でありながら、私の魔導書を盗んで逃げたのだからね!」
「なん、ですって……!?」
そんな彼に向かって、嘘をつくフリーラス。
しかしながら、実直が服を着て歩いているようなウィリスである。教員である彼の言葉を鵜呑みにしたらしく、眉間のしわをさらに深くした。
そして、膝に置いていた拳を握りしめて震わせる。
「おそらくは、もう質にでも入れているだろう。取り返してほしい、という話ではないのだよ」
「……と、言いますと?」
「…………」
フリーラスは、沈黙の後にこう言った。
「無法者には、相応の罰が必要だ。――それに、ウィリスくんはアイン・クレイオスに、思うところがあるらしいからね? 判断を委ねよう、そう思ったのだよ」
まるで、悪魔の囁きのように声のトーンを落として。
それを聞いてウィリスは――。
「――えぇ、そうですね」
短く、そう答えた。
軽く目を伏せてから、浮かべた表情は。
「彼には、ぜひ『退場』願いたいですから」
邪悪、そのものだった。
――――
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