4.小心者の意地、少年への誓い。









「これは、キリがない……!」



 ボクは無詠唱魔法でヒュドラを各個撃破しつつ、そう呟いた。

 数にして数十体。しかし、倒せば倒すほどに敵は湧き出してくる。かれこれ小一時間相手にしているが、終わりは一向に見えなかった。

 幸いヒュドラは動きが鈍い。

 そのため陽動に出ているベネットにケガはないが、体力の問題があった。


「範囲魔法で一掃できれば、一番いいんだけど……」


 だが、それには詠唱が不可欠。

 そうなってくると、詠唱している間は無防備。

 ガンヅさんを防御魔法で守りつつ、というのはリスクが高かった。



「なぁ、少年……?」

「え……?」



 そう、考えていた時。

 ふいにガンヅさんが口を開いた。



「やっぱり、友達ってのは守らないといけない、よな……」

「…………」



 そして訊かれたのは、そんなこと。

 ボクは注意を払いながら、静かに答えた。



「ボクは、そう思っています」――と。



 すると彼が息を呑んだのが分かった。

 その後また沈黙が生まれ、時間の感覚がおかしくなる。そんな間の抜けた瞬間を突かれた。



「――アインさん、危ないです!!」

「なっ……!」



 ボク目がけて、ヒュドラの尾が迫ってくる。

 防御魔法は間に合わない。



「くっ!」



 衝撃に備える。

 そして、一瞬だけ目を瞑った――だが、



「え…………?」



 轟音が響くものの、痛みはなかった。

 どういうことだろう。そう思って前を見ると、そこには――。



「ガンヅさん!?」



 大剣を盾のように構えて立つ、彼の姿があった。

 ヒュドラの一撃は強烈だ。それを受け止めたのだとしたら、腕がへし折れていてもおかしくはない。しかし、ガンヅさんは小さく笑って言った。



「昔から、身体だけは丈夫でな。だから――」



 足を震わせながら、それでも前を向いて。



「少しだけなら、時間稼ぎ、できると思う……!」







「ありがとうございます……!」



 少年の感謝の言葉を耳にしながら、ガンヅは微笑んだ。

 そして思うのだ。


 ――感謝するのは、自分の方だ、と。



「震える足でも、少年――アインの邪魔にはならない!」



 だから、決意をするようにそう叫んだ。

 冒険者になって初めて、自分のことを仲間だと言ってくれた。さらには友達だと、言ってくれた少年を守るために。

 小心者の自分に喝を入れるようにして。



「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」



 ベネットが逃したヒュドラの攻撃を、何度も防ぐ。弾き返す。

 そして、十数秒が経過した時だった。



「ベネット、ガンヅさん! ――ボクの近くに集まって!!」




 アインが号令をかける。

 即座にベネットとガンヅは、指示に従った。その直後――。




「大地を抉れ――【アースクウェイク】!!」




 三人の周囲、半径数十メイルの大地が勢いよく隆起した。

 ヒュドラの分厚い皮を突き破る岩の柱。土系魔法使いの中でも、ほんの一握りの者しか扱えない強大な範囲魔法だった。

 断末魔を上げる魔物たち。



 そして、魔素に還っていく輝きを見つめながら。




「すげぇ、な……」




 ガンヅは、ぽつりと呟いた。

 足から力が抜けて、その場にへたり込みながら思う。




 この恩は、いかにしてでも返さなければならない――と。






 この瞬間に、彼は自身の主を決めた。

 そして尊敬と畏敬の念を抱き、小さく微笑むのだった。



 







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