4.小心者の意地、少年への誓い。
「これは、キリがない……!」
ボクは無詠唱魔法でヒュドラを各個撃破しつつ、そう呟いた。
数にして数十体。しかし、倒せば倒すほどに敵は湧き出してくる。かれこれ小一時間相手にしているが、終わりは一向に見えなかった。
幸いヒュドラは動きが鈍い。
そのため陽動に出ているベネットにケガはないが、体力の問題があった。
「範囲魔法で一掃できれば、一番いいんだけど……」
だが、それには詠唱が不可欠。
そうなってくると、詠唱している間は無防備。
ガンヅさんを防御魔法で守りつつ、というのはリスクが高かった。
「なぁ、少年……?」
「え……?」
そう、考えていた時。
ふいにガンヅさんが口を開いた。
「やっぱり、友達ってのは守らないといけない、よな……」
「…………」
そして訊かれたのは、そんなこと。
ボクは注意を払いながら、静かに答えた。
「ボクは、そう思っています」――と。
すると彼が息を呑んだのが分かった。
その後また沈黙が生まれ、時間の感覚がおかしくなる。そんな間の抜けた瞬間を突かれた。
「――アインさん、危ないです!!」
「なっ……!」
ボク目がけて、ヒュドラの尾が迫ってくる。
防御魔法は間に合わない。
「くっ!」
衝撃に備える。
そして、一瞬だけ目を瞑った――だが、
「え…………?」
轟音が響くものの、痛みはなかった。
どういうことだろう。そう思って前を見ると、そこには――。
「ガンヅさん!?」
大剣を盾のように構えて立つ、彼の姿があった。
ヒュドラの一撃は強烈だ。それを受け止めたのだとしたら、腕がへし折れていてもおかしくはない。しかし、ガンヅさんは小さく笑って言った。
「昔から、身体だけは丈夫でな。だから――」
足を震わせながら、それでも前を向いて。
「少しだけなら、時間稼ぎ、できると思う……!」
◆
「ありがとうございます……!」
少年の感謝の言葉を耳にしながら、ガンヅは微笑んだ。
そして思うのだ。
――感謝するのは、自分の方だ、と。
「震える足でも、少年――アインの邪魔にはならない!」
だから、決意をするようにそう叫んだ。
冒険者になって初めて、自分のことを仲間だと言ってくれた。さらには友達だと、言ってくれた少年を守るために。
小心者の自分に喝を入れるようにして。
「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ベネットが逃したヒュドラの攻撃を、何度も防ぐ。弾き返す。
そして、十数秒が経過した時だった。
「ベネット、ガンヅさん! ――ボクの近くに集まって!!」
アインが号令をかける。
即座にベネットとガンヅは、指示に従った。その直後――。
「大地を抉れ――【アースクウェイク】!!」
三人の周囲、半径数十メイルの大地が勢いよく隆起した。
ヒュドラの分厚い皮を突き破る岩の柱。土系魔法使いの中でも、ほんの一握りの者しか扱えない強大な範囲魔法だった。
断末魔を上げる魔物たち。
そして、魔素に還っていく輝きを見つめながら。
「すげぇ、な……」
ガンヅは、ぽつりと呟いた。
足から力が抜けて、その場にへたり込みながら思う。
この恩は、いかにしてでも返さなければならない――と。
この瞬間に、彼は自身の主を決めた。
そして尊敬と畏敬の念を抱き、小さく微笑むのだった。
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