3.腰抜けのガンヅ。
――『腰抜けのガンヅ』あるいは『見かけ倒しのガンヅ』
それが、この男につけられたあだ名だった。
自分の身の丈に合った相手であれば、その力を存分に振るうことができる。しかし、ひとたび凶悪な魔物の前に姿をさらした時、小心者振りが発揮されるのだ。
人並外れた身体の強さを持ちながら、それを活かしきることができない。
それ故に、彼は多くのパーティーを転々としてきたのだった。
◆
「はぁ、はぁ……!」
涙目になりながら、息を切らせて走るガンヅ。
中間層をさまよって、気付けばアインたちともはぐれてしまった。それでも周囲に魔物の気配はなく、息を殺していれば生きて帰ることができるだろう。
これまで何度も経験してきたことだった。
所属したパーティーから勝手に離脱し、王都へと逃げ帰る。
そして、今回もまた追放されるのだろう。
「やっぱり、俺には無理なんだ……!」
壁に背を預けて、小さくなる大男。
膝を抱えてすすり泣く姿は、ある意味で恐怖の絵面だった。
「ごめん、みんな。俺には冒険者なんて……」
泣きべそをかく。
そして、何者かへの謝罪を繰り返すのだった。
「でも、生きて帰らないと……!」
だがやがて、唇を噛みしめて立ち上がる。
虚勢を張り続けていたガンヅの顔にはもう、生気がなかった。アインとベネットには悪いことをしたと、心の底から思っている。
しかしながら、自身の生存本能には抗えなかった。
また会えたら頭を下げよう。
「…………え」
そう、思った時だった。
彼の周囲に、静かな気配が無数に存在していたのは。
「うそ、だろ……?」
ガンヅの脳裏に『死』という文字がよぎった。
間違いない。そこにいたのは、群れを成したヒュドラだった。
「あ、あぁ……!」
腰砕けになる。
そして、力なく迫りくる大きな影に震えるのだった。
彼の生涯はこうして終わる。誰にも必要とされず、誰にも気づかれず。
なんと、情けない最期なのか。
そう思ってガンヅは目をゆっくりと閉じ――。
「大丈夫ですか、ガンヅさん!!」
「なっ……!」
――その瞬間だった。
目の前にアインが現れて、防御魔法を展開したのは。
ヒュドラの攻撃を弾き返したそれの衝撃が、空間を振動させた。
「な、なんで……。俺のことを助けに……?」
だが、それよりもガンヅには疑問があった。
どうしてアインがここにいるのか。
それに対して、彼は答えた。
「ボクとガンヅさんは、もう――」
振り返ることなく、周囲に注意を払いながら。
とても真っすぐな声で。
「もう、仲間であり友達だからですよ!」――と。
それは、役立たずと言われ続けたガンヅにとって。
何よりも縁遠く、そして響く言葉だった。
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