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深夜は深夜の風が吹く
 ̄- ̄- ̄- ̄-
其の夜、とある片田舎の道路を独り歩く者が居た。
――こちら、コードネーム『
暑い
時刻は午後九時前。夏と
翠。翠。翠。どこを見渡しても夜に包まれた暗い翠色ばかり。
こんな草木にまみれた片田舎に僅かな数だけ設置されている街灯なんかは、いつからか故障してチカチカと翠色に瞬くようになった。充分な舗装が行き届かず廃れた道路を何キロか歩く。この時間は車も眠っているようで、夜の更け始めから今まで一度たりとも見かけていない。じわじわと不安を煽られる闇の中、辿り着いた場所は実の父親が経営する大学病院。
――やるべき
コードネーム『零』は与えられた任務に対して強靭な責任感を有す。持って生れた気質だが、今回は特に集中力を注いでいた。
高校一年生。市内に構える某大学病院長の息子。
――こちら、コードネーム『
病院の自動ドアを潜った零は思わず、その細い目をより一層細めた。
数十分の間、闇を進んできた彼にとって突然の電灯が明る過ぎたのだ。
黒髪に黒パーカー、カラスのような漆黒のスラックスと闇色のマスク。どこからどう見ても黑一色。よく目立つ。電灯が
彼は受付まで全く慣れた足取りで直進し、控えめながら人の良さげな笑顔を作ると、壮年の男性事務員へそっと話しかけた。
「どうも、こんばんは。――僕はこういう者です」
「今晩は
「父に招かれまして。部屋を訪ねて構いませんか?」
左様で
零は受付の前へ
「えー……、
壮年の事務員は少々困り果てて白い眉毛を下げた。零が顎に拳を当て大真面目に考え込む仕草のまま指一本ピクリとも動かないのだ。再び声掛けをしてみても気が付かない。待ちかねた事務員が肩を叩く。
「――あっ。すみません。」
コードネーム『零』は考え事から意識を戻す。壮年の事務員から、病院の
零の実の父親である院長は興味を引く対象に熱中している間、他のあるゆる事象に注意を向けることを苦手とし、それは零に対しても例外でない。零でさえ病院に閉じこもっている彼の姿を殆ど見たことが無いので、そこで何をしているかさっぱり見当つかない。だが慣れている。その放置気味の距離感がちょうど心地良いとさえ感じる。
母親は幼い頃に死んだ。死因は知らない。どうでも良い。
銀色に輝く巧妙鍵を無くさないようしっかりと手中に収め、父の居場所でなく――
――こちら、コードネーム『零』。鍵の入手に成功。
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