炎天後の暗闇
世界の果て、一切の苦痛から断たれた神聖な場所。
まさに天界。まさに至福。そう、布団の中みたいにぬくぬくした最高のアレだ。
ふわふわ羽毛布団とシーツこそ癒し。それ以上の癒しと安らぎを私は知らない。
自分の居住地が布団で造られている、その何と幸福なことか――、一生暮らせたら
――
遥か遠く、あっ、否、別にそうでもないが――
将来へのぼんやりとした不安。生きたくはないが光は追ってくる。
水溜まりを踏み、橙色の街灯を幾つも超えた。彈む声がトンネル内によく響く。されども背中で光が煽っている気がした。
五分は走っただろう、ふむ、
まだ追ってくるのか。
私は追っ手の様子を再確認する為、振り向いた。そこに光は無かった。至極当然のように消滅している。私はホッと胸を撫で下ろす。
もう大丈夫だと思った。残念ながらそれは束の間の休息だった。何故なら背後を
家一軒分くらいの岩が、私の眼前に襲いかかっていた!
 ̄- ̄- ̄- ̄-
心電図特有の機械音。右手首に点滴が繋がれている。
広くて壁も天井も白い部屋。おそらく此処は病院だろう。
「気が付きましたね。もう大丈夫です、山は越えましたよ。
あなたは熱中症にかかって倒れていたようです」
現実に帰還してしまった。何ということだ、ああ神よ! 私はただ夢の世界に留まりたかっただけなのに。
――――。 !
脳裏で糸を引くように、パラパラ漫画のように、倒れる直前の景色が蘇った。
公園で駆け寄ってきた女児の母親が救急車を呼んでくれたらしい。しかし、彼女たちの姿は病室のどこにも見当たらない。帰路についてしまったようだ。一度、声を掛けたかったなあ。
私のベッドは四人部屋の奥。入院が決まってしまった。
それにしても。
熱中症。熱中症で入院。人生初の入院した理由が熱中症。――そういえば昔、凄く幼い頃、母さんが云っていたなあ。「熱中症を軽く見るんじゃないよ」と。
――あのまま野垂れ死んでも良かったのに。
その後、
大分、日が沈んでいた。
夕日に照らされた院外の景色は言うまでもなく美しかった。
黄緑色に
もう十八時過ぎですから――、えぇ、冬に比べて日が延びたものです。
退院したら間違いなく高額な医療費を請求されるだろう。おお
有難いけれどそれは無理だよ、お医者様方。私には身寄りがなければ医療費を払えるほどのお金も有ると思うかい? 生活保護? 手続きをしたくない。
それじゃあ病院から脱出することに決まりだね。必要性が有れば学校からも失踪してしまえ。果たして私は医療費から逃げ切れるのか!?
ただし、問題は
そこで、だ。一つばかり解決案がございます。
「と、
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