一章
>>1
炎天下の白昼夢
ジージリジリジリ ミンミンミンミー
蝉の怒号で叩き起こされた。晴天。雲一つ存在せぬ。退屈そうな時計の指針は、現在時刻が午前十時三十分である事を皆の衆に知らせた。
日常が非日常へ変わり始めたのは、この日からだ。
私は公園のベンチの上でぼうっと彼方を見つめていた。
暑い。あまりの暑さに
そういえば――、岩に体当たりされて死ぬ夢を観た気がする。忘れたけど。
なんだか、やけに蝉の声が近いなと思ったら、彼は
『嗚呼、なんてお空はお美しいのでしょう、
今日、八月三十一日。かやましい蝉たちの求婚を直近にして、どういう訳か幽鬱な気持ちになった。
今日、八月三十一日。それは
私は公園の一角に設置された
暑くて熱くてたまったものじゃないね――。
ジリジリと肩に食い込む蒸し暑さ。首筋に伝わり流れてゆく汗が喉の
私の名は、
両親に先立たれ、身寄りもなく、バイトを掛け持ちして学費や生活費を
つい先日、何か月も家賃を滞納した挙句、とうとうアパートから追い出されてしまったので、こうして公園で野宿しているという
「あー――……」
意味のない
飲み干して空になったペットボトルが爽快な音と共に潰れる。
所持金、七百円。
このまま野垂れ死にするか。
それとも公園を不法占拠している罪で刑務所行き?
どちらの道を歩むのも絶対にお断りだね。退屈も痛みもありとあらゆる苦痛が嫌いだよ。
「あー……、ああ…………。ああああ」
暇だ。暇よ。お先真っ暗――、私はどうすれば
……。………。…………、!
私の脳裏に、とある一つの
司のアイデアリスト
・店長に内緒でバイト先に宿泊する。
・友人の家に泊めてもらう。
・見ず知らずの他人の家に忍び込む。
・
駄目じゃないか。私。
それから項目二について触れよう。親友と呼べる友人は一人。たった一人と捉えるか、一人いるから充分だと捉えるか。私の二つ年下の同級生である。しかし、彼のご両親に頭を下げてお願いするのかい?
「家賃滞納のし過ぎで追い出されたから泊めてください」などと抜かすのかい?
……。先程までの私よ、残念ながら、どれも実行は不可能に等しい。発言を撤回し
 ̄- ̄- ̄- ̄-
その間、私は心ここにあらずと
何やら透明な耳栓でもしたかのように無音の世界を
炎天下、青空を入道雲を見上げて
花火大会へ遊びに行った映像。あれ?
遠い夏の日、実際に経験しなかったっけ。あの日は確か友人と。――気のせい。
蝉の求婚が一キロ先のように遠く聞こえた。
ははっ、結婚だなんて、今の私には関係ないし。
何もしたくない。気力が沸き上がらない。体が重い。先刻とは程遠い無気力な感情。プールで泳いだ後のような心地好さ。私は退屈を楽しんでいるらしい。それに加えて
ぐるぐると揺らめく視界を遮ったのは、一人の巨人だった。
「お兄ちゃんだれ?たくさん汗かいてるよ」巨人は少女のような幼い声で云う。顔は逆光の
――巨人って本当に居るんだ。初めて見た。これから信じよう。
おかあさーん、と彼女が声を張り上げ、母親らしき女性(巨人)が走って急接近してくる。僕のことなんか放っておけ。
女性たちが私を取り囲んでいる状況。ああ。何だこれ――。
本当に、何だこれ――――。
世の中、意外と捨てたものじゃなかっ―——
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