第5話 アリサの答え

 約束の時刻になった。十六時二十七分。競輪GPの投票締め切り時刻だ。

 アリサの目の前には、あの老紳士・競輪の神様がいた。特観席を離れたアリサは、競輪場内のホームストレッチ前に来ていた。周囲はかなり薄暗いが、バンクを競輪場のナイター照明が照らしている。夕方の厳しい寒さにも関わらず多くのファンが、そこに


「流石、静岡じゃな。立川とも、京王閣とも異なる熱気があるわい」

「確かにね」

 競輪の神様の呟きには同意せざるを得ないアリサ。地元である立川、京王閣でのGPとは異なり、ファンの熱量が違う。身動きが難しい位に多数のファンで溢れかえるゴール前。

 

 場内に大きなアナウンスが流れる。いよいよGPを走る九名の選手が、バンクへと姿を現す。ファンが一斉に歓声を上げた。

 そんなとき、競輪の神様がアリサへ問いかける。

「では、君の答えを見せてくれ」

 手を差し出してくる競輪の神様。購入した車券を見せよとのことだろう。

「どうぞ」

 アリサは素直に車券を差し出す。

「うむ。これが君の答えか・・・」

 神様は車券を眺めながら呟いた。

 今回は三連単での予想勝負。先の二回とは緊張感が違った。少しだけ手が震えていたアリサ。

「①②③④⑤のBOXで」

「おや?以外にも手堅く勝負してきたな?」

「うるさいわね!当てることが目的なんでしょう?なら、私の勝手でしょう?」

 アリサの三連単の車券を見た競輪の神様。続けて、彼女の問いかける。

「ズバリ、グランプリ優勝は何番だ?一人だけ答えよ」

「優勝は・・・」

「うむ。優勝は?」

 なかなか答えないアリサ。彼女にしては、かなり迷っている。

「うーん・・・。⑥!」

「あらっ?⑥なんて買ってないじゃろ?」

 拍子抜けの神様。

「いいのよ!とにかく、レースを見るわよ!」

 アリサと神様は、静岡競輪場の2センター側に設置されている大型モニターに目を向けた。

 GPを走る選手が一人一人名前を呼ばれて発走機の前へとやって来る姿が映っていた。

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