第4話 悩む魔女

「う~ん・・・」と唸りながら専門予想紙とにらめっこをするアリサ。

 彼女はホームストレッチ側の特別観覧席にいた。所謂、特観席だ。静岡競輪場も特観席は綺麗に整備されていて、快適に過ごすことができる。

 競輪GPのため、特観席への入場は抽選制になっていた。が、そこは競輪の神様。特観席への抽選券をアリサに気前よく渡してくれていた。

 師走なので寒いのは当然だが、この世界の師走は特に寒く感じた。海の目の前ではないが、やはり距離的に言えば海岸まではあまり離れていない静岡競輪場。風が強いと体感温度も低く思えた。


 特観席からバンクを眺めるアリサ。この風がどんな影響を与えるだろうか?寒い時期のバンクは重くなりやすい。それは競輪選手でなくとも、経験がある人は多いだろう。例えば、朝早くに通勤通学で自宅から駅まで自転車で向かう。これが七月と十二月では、自転車を走らせたときの感覚が異なるはずだ。冬場の朝早く、寒さがキツイタイミング。ペダルが重く感じる感覚だ。


 競輪の神様は、前回と同じく最終レースの締切時刻に再び現れると言って姿を消した。今日の最終レース。11R(レース)・S級GP。その締切時刻は、十六時二十七分。それまでは、まだ五時間近くある。

 周囲の客達は、それぞれGPの時刻までを過ごす。仲間や家族で、ああでもない、こうでもないと予想をしている。アリサと同じように専門予想紙にかじり付く人。何か必死にメモをして、自分の予想を整理する人。皆が運命のときを迎える準備をしている。


11Rが行われるまでに寺内大吉記念杯競輪の決勝戦や敗者戦があるが、アリサはそれらに構っている余裕はない。競輪GPのみに集中している。

「さてと・・・」

再び専門予想紙の11Rのページを見るアリサ。そこには11Rの並びが載っていた。

競輪は、という連携をしてレースをする。それが競輪をする上での楽しさであり、難しさでもある。GPの並びは、次のようになっていた。

           

           ↤②⑤⑥ ⑨① ④ ⑦⑧③ 

「う~ん・・・」

誰が最終的に先行するだろうか?それが推理をする上でのポイントになるだろう。

「⑦か、⑨か・・・」

専門予想紙のデータや、選手のコメントから推理しているアリサ。データから推測すれば⑦が先行しそうだが、そんな簡単に先行させてもらえるだろうか?

「う~ん・・・」

悩ましいと思うアリサ。今回は、過去二回と異なり三連単での勝負だ。今まで通り二車単でなら、多少は予想しやすいのに。そう思いつつ、特観席の外へ目を向ける。バンクでは、第3Rが始まっていた。

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