第3話 最終決戦の地・静岡競輪場
アリサが気づくと、目の前には多くの人が列を成していた。
「うううっ!寒いっ!」と思わず叫んでしまったアリサ。肌を切り裂くような冷たい風が彼女の体を震わせる。
先程までは夜の立川の街にいた。しかし、どうやらここはそうではないようだ。現在地を確認しようとするアリサの目の前に大きな門が目に入る。
「ここは・・・」
群衆の向こうに見える門。そこには『静岡競輪場』とあった。
「ここが異世界の競輪GPの地じゃ」
アリサの脇に現れたのは競輪の神様。
どうやら、この世界での競輪GPは、静岡で開催されるようだ。東京都民のアリサだが、静岡競輪場は母・雷鳴と共に訪れたことがある。無論、彼女の住む世界での話だが。だが、それと比較しても、見た目は同じように感じたアリサ。やはり異世界というよりも、並行世界と言った方がしっくりくる。
開門を待つ群衆の多さを見れば、いかに静岡競輪場の集客力が大きいかを物語っている。静岡市という立地条件を考えれば、首都圏から酷く離れた場所とは言い難い。だが、立川や京王閣、平塚以上の客を呼び集める力が静岡競輪場にはあった。
「小娘よ。今日は異世界の12月30日。つまり、競輪GPの日じゃ。見ての通り、GPの地はここ静岡。今は、12月30日の午前7時50分じゃ」
競輪の神様はアリサへ語り掛ける。それを黙って聞く彼女。ここまでは場所(以前は二回とも立川競輪場)は違えど、条件はほぼ同じと考えていいだろう。
「じゃあ、今回は競輪GPで優勝者か、二車単を当てればいいのね?」
「違う」と、即座に否定する競輪の神様。
「えっ!」
「ふふふっ!今回は一年の総決算・競輪GPじゃ!今回は二車単ではなく、三連単を当ててもらうぞ!」
「げっ!」
思わず表情が曇るアリサ。即座に、難しい事態に陥っていることを理解したからだ。
「・・・」
嬉々としている競輪の神様とは対処的に、アリサは黙り込んでしまった。三連単を当てるのは簡単ではない。ましてや、それが競輪GPでの話。競輪GPを走る選手は正直言って強い選手しかいない。他の開催とはワケが違うのだ。
過去の競輪GPを見てきたアリサだが、優勝者を当てるのすら難しいときがある。二車単ならまだしも、三連単は万車券になる傾向が多い。
アリサの心中を察したのか、競輪の神様は言う。
「今回は今までのようにはいかないぞ、小娘」
「むむむっ・・・!」
アリサは一応、勝負の条件を確認する。
「今回は競輪GPでの三連単を当てればいいのね?」
「ああ。または優勝者を当てる。このどちらかの条件を満たせば、お主の勝ちとしよう」
優勝者当てが条件に残されたことに安堵するアリサ。三連単だけを当てるのでは勝つのは難しいと思っていたからだ。
「これを渡そう」
競輪の神様はアリサにスマホ、茶封筒、そして、専門予想紙を手渡す。
「これがお主に残された勝利への道しるべだ」
「軍資金は?」
スマホの電源を入れながら尋ねるアリサ。
「ネット投票サイトの口座に二万円。茶封筒には三万円入れてある。専門予想紙はおまけだ。参考にするがいい」
黙ってスマホを見つめるアリサ。
「どうした?おじけづいたか?」
神様の見下したような問いかけにアリサはキッパリ答える。
「全然!一年の総決算競輪GPよ!負ける気がしないわ!」
不敵な笑みで神様を見るアリサ。
「まあ、いいわい。文字通り、結果は神のみぞ知るだ。前回と同じように競輪GPの締切時刻にお主の答えを聞きにくる」
「ええ。それで構わないわ」
強気な姿勢を崩さないアリサ。一歩も引く気はないことを言葉と態度で示す。
「では、また会おう」
そう言って競輪の神様は群衆の中に消えて行った。
「やってやるわよ・・・!」
アリサは両手で自らの頬を叩き、気合を入れた。
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