第5話

他の所と同じくらい荒れ果てた路地をいつものように歩く、

どこもかしこも同じくらい荒れていて、歩いたことのある道か初めて歩く道か分からない。今日も同じような感じだ。細長い路地に一つ目を引く、見たことのあるような看板があった。

『隠れ家ラベンダー』

店の名前は聞いたことのないものだ。だが、看板として使われている黒板に描かれた絵は母親に捨てられたもうお目に掛かれないはずの自分の描いた絵だ。

「懐かしいな」

戻りたい、そうまた願ってしまった。崩れたあの頃に戻れることはないだろう

「綺麗だよね、この絵、君もそう思うでしょ」

ずっと自分一人だと思っていたのに、気づいたら見知らぬ女が隣で看板を見ていた。

「この絵ね、池に捨てられてたんだよ、悪いココロドリのせいでイライラして捨てちゃったのかもしれないけど、少し勿体ないよね」

無邪気な声色でペラペラと話す女の人にさっきの兄貴とやらと同じように言い放つ、

「なに人の絵を勝手に使ってんの」

「ついつい、あまりにいい絵だったから、もしかしてこの絵の持ち主のこと知ってるの」

「知ってるもなにも、この絵描いたの僕なんだけど」

「そうなんだ。ごめんね」

「その絵は母親に池に捨てられた。もう一生見ないかと思ってた」

「お母さん酷いね、まだ絵、描いてるの」

「もうやめたよ、そんな余裕はない」

「そっか、もう一回描いてみない?」

「描いてみない」

これが彼女、サリーとの出会いだ。

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