7-2_閑話―祝勝会_その2
■税金――――――
「まあ、仕事が落ちついたなら式場選びからやっとくのが良いだろうな」
「村吉くんは決まったの?」
「うちは、色々決まって、あとは、席順を決めたりとか……」
ハツネちゃんがちょっと嬉しそうに答えた。
大変でも楽しい作業なのかなぁ。
……村吉くんの顔を見たら、そうとは言い切れないみたいだった。
すごく勉強になるな。
「そう言えば、それだけ儲かってるなら車を買え!車を!」
「車?正直、走ればいいと思ってて……」
結局、壊れたナビもそのままだった。
いい加減買い替えは考えている。
「バカ、税金対策だよ。税金対策」
「税金対策で車買うの?」
「そ、車には『減価償却』って期間が決まってるんだよ。新車なら6年、中古車なら4年」
「……うん」
「あ、わかってねーな?要するに会社で車買うとするだろ?1000万円で買った車も6年後には法律上では価値が0円ってこと」
「それで税金とどうつながるの?」
「例えば、1000万円で中古のベンツを買うだろ?」
「うん」
「4年後には価値がゼロだよ」
「うん」
「だけど、実際は中古車として売っても800万円だったとするだろ?」
「まあ、4年しかたってないからね」
「価値が0円のものが売れば800万円になるんだよ」
「わかったような…わからないような…」
「あー、もう!だから、0円になった車を『会社』から『個人の高野倉』に売ったとするだろ?1万円とかで」
「うん」
「お前は、1万円で車を買って、800万円で売れば儲かるだろ?」
「ああ、すごく儲かった!」
「そして、会社の金を個人の金にできてる」
「ああ!」
「まあ、これは極端に言ってるけどな。俺の知ってる社長は毎年新しく車買ってるよ。中古で」
「はー!そんな裏ワザが!どこで習うの?そんなの」
「まあ、経営者はなんとか税金対策したいわけよ。黒はダメだから、グレーとか、黒寄りのグレーとか、色々あるんだ」
「マジか……」
「まあ、そんな話の中に、『投資』とか『詐欺』とかが入ってくるから、わかんないうちは飛びつかない方がいいな」
「村吉くんに相談するよ!先生!」
「もう、金(かね)取られんなよ?」
そうだった。
つい先日2,350万円盗られたんだった。
「とりあえず、航空機とか、リゾート船とか、宇宙船とかハワイの土地を買うみたいな話は、もう聞くな!」
「なんかあったんだね……」
■家を買う?―――――
「家とかは税金対策とか、投資にはならないのかな?」
引っ越しを考えていたので、家は買うべきか賃貸にすべきか悩み中。
ついでに税金対策になったら嬉しいと思って、試しに聞いてみた。
「家は、減価償却が20年とかだ。5000万円で家を買っても、今年税金をして効果があるのは250万円だけになる。さっきの中古車の1000万円と同じだけしか効果がない」
「ああ」
「しかも、価値がなくなるまで20年かかるし……その頃、俺らいくつだ?」
「会社のお金で事務所とか買ったらダメなのかな?」
「節税効果は少ないし、現金がごっそり出ていくから自社ビル建てた会社が翌年傾くってのはよくある話だよ」
「うわー、先に聞いててよかった」
「まあ、かなり黒寄りだけど、会社として借りて、そこに住めば個人の金を使わないから節約にはなるな」
「うちもそろそろ事務所が必要そうだから……」
「そんときゃ、無理しない広さのとこからスタートした方がいいぞ?マンションの1室とかで良くね?」
「考えてみる」
「って、小路谷さん!ハツネちゃんとがっつり女子トーク!?」
はっとして、こちらに気づく小路谷さん。
「あ、なんか楽しそうに話してたから……こっちは、新婚生活の話を聞いてたから」
「聞いたよ?高野倉くん、今日はリゾートホテルにお泊まりだって?」
小路谷さん、ハツネちゃんに何の話をしていたのだろう?
「うん、あそこしかいいとこなくて……」
「私、今日ホテルに連れ込まれるから!」
小路谷さんは、これが言いたかっただけかもしれない……
「だから、それやめてよ!」
「「ははははは」」
■お礼の保険とは―――――
「あ、そうだ!俺、村吉くんに恩返ししてないんだった!」
「お前、この場はなんなんだ……」
「ああ、ほら、保険!村吉くん保険屋さんなんでしょ?」
「そっか。保険に入ってくれるのはありがたいけど、内容分かっては入れよ?義理じゃなくて」
「あ、うん」
「さっきの税金対策じゃないけど、一番合法的でちゃんと効果があるのが保険だと思ってる」
「へー」
「だから、保険の話は税金の話になるんだよ」
「そうなんだ」
「ま、最近俺は例の『県人会』で住宅メーカーのやつと組んでるけどね」
「保険と住宅?」
「まあ、お前が家を買うとしたらどこ行く?」
「住宅展示場?」
「そ。で、営業に家を勧められるだろ?」
「多分ね」
「そしたら、ほとんどの人がローン組むだろ?」
「そうなるよね」
「それで35年とかのローン計画をする訳さ」
「うーん」
「その間に、色々あるだろ?子供ができたりさ」
「ああ」
「だから、ファイナンシャル・プランナーが計算してあげる訳さ」
「ああ、だからFPの資格もってるんだ」
「そ、名刺もFPと保険で2種類持ってる」
「そんなのアリなんだ」
「旦那が死んだら団信って保険が付いてるから家は家族のものになる」
「へー」
「でも、旦那が死んで奥さんと小さい子供はどうやって生活する?」
「ああ、そこで保険か!」
「そう!そこで、もう一枚の名刺が出てくるわけさ」
「はー、世の中知らないことばかりだよ」
「保険屋が一番大変なのは、見込み客を探すことだからな」
「これでも成績はエリアトップなんだよ」
横からハツネちゃんが小声で入ってきて村吉くんを誉めた。
「まじ!?すげえ!」
「まあ、お前に負けていられないからなぁ」
ここで村吉くんが、女子トークっぽくなっていた小路谷さんとハツネちゃんに気づいた。
「ごめん!仕事の話っぽいのばっかだった!退屈だったろ!」
「そうだよぉ!美穂ちゃんと高校の時の話してたよ!」
ハツネちゃんがオコだった。
「俺もそっちの話入りたかった!」
「俺は、高校時代の話はしたくない」
ボッチで過ごした高校の話とか、『ボッチだった』で終わりだから。
「だいたい、最近、高野倉くんの周りって事件が多かったから!」
小路谷さんが苦情を申し出た。
「なにそれ?」
「もうね、コナンかと思うくらい色々あった」
やばい。
小路谷さんが暴露話的に話し始めた。
「やめてよー」
「今回のお金持ち逃げは特にひどかったけどさ」
それだと、俺が持ち逃げしたみたいだから!
「言ったれ!言ったれ!」
「まずは、同窓会呼ばれない事件でしょ~、高野倉くんの友達失踪事件でしょ~、高野倉くんの友達が口説いてくる事件でしょ~、海に車でダイブしかけた事件でしょ~」
1個ずつ指を折りながら数えていく小路谷さん。
「お!ザクザクでるな!」
「ちょっと!俺全部巻き込まれてるだけだから!」
「まだまだある?」
ハツネちゃんもノリノリだ。
「ちょっと待った!良い話もあるから!プロポーズの言葉を一緒に考えた!」
「え~、小路谷さんへのプロポーズの言葉なのに、小路谷さんに考えさせたの?」
ハツネちゃんが難色を示した。
「違う!誤解だから!ウーピーパイだから!」
「ウーピーパイ?ちょっと何言ってるか分からないわ」
「ちょ!小路谷さん!なんでそこで俺がのぼった梯子を倒すの!?」
「高野倉くんがなにを言ってるのか私にはわからないわ」
小路谷さんがプイと向こうを向いた。
「うー、リア充怖い。リア充怖い」
「ほんとお前ら面白いな!」
村吉くんが涙を流しながら笑ってた。
■リゾートホテル―――――
『また』って言って二手に分かれた。
当然、俺らは例のリゾートホテルにタクシーで向かった。
部屋に着いて、結局缶チューハイを開けた。
多分、もう飲めないけど開けた。
「なんか、久しぶりに外で飲んだね」
「そーね」
手持ち無沙汰なのか、テーブルの上のウェルカム・フラワーの花びらをむしる小路谷さん。
「以前(まえ)言ってたじゃない?同級生の女の子は全員ライバルって」
「うん」
「今日は『ライバル』じゃなくなってたよね」
「やっぱり『仲間』よね。今回、色々助けてもらったね」
「ホント助かった。やっぱ、高校時代の関係って特別だと思った」
小路谷さんの手を握ってみた。
「村吉くんもハツネちゃんも、なんもメリットないのに、ただただ助けてくれたよね」
「そう、だからせめて保険に入ろうかと思って」
「飲み会は?」
「あの店めちゃくちゃ安かった。割引してくれたのかも。あれじゃお礼にならないよ」
「そうだったんだ……」
「「……」」
さすがリゾートホテル。
部屋の中でも雰囲気はかなりいい。
「ベッドおっきいね」
小路谷さんが部屋のベッドを見て言った。
「色んな体勢でスプリングの具合を確認しようかな」
「いっぱい飲んでたのにできるのぉ?」
「じゃあ、それも確認するということで……」
小路谷さんをお姫様抱っこして今日の寝床に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます