7-1_閑話―祝勝会_その1


「いや~!高野倉くんにホテルに連れ込まれるぅ~!」


「割と本気で人聞き悪いからやめてもらっていいかな?それ」




先日のトラブル回避と完全処理の祝勝会のために、以前の居酒屋に来た。

今回は、小路谷さんも飲むから車で近くまで来てホテルに泊まることにしている。


村吉くんが住んでいるのは、海の近くというかちょっとリゾートっぽいところ。

市内からだと20kmとか30kmとかだから、飲んだ後帰るのは厳しい。


そこで、週末デートも兼ねて思い切ってお泊りにしたのだ。






■リゾートホテルに泊まろう―――――

ホテルからお店まではタクシーで。

贅沢だけど、それ以外の交通手段がないのだからしょうがない。

しかも、リゾートホテルみたいなのは1件しかなくて、あとはラブホテルか駅の近くにビジネスホテル……


これから結婚しようかという二人がビジネスホテルってのも味気ないし……

なんか、消去法でリゾートホテルを選んだ。



「きゃー!なにここ!今日ここに泊まるの!?」


「そう、リゾートホテルだよ」


「なに?どうしたの!?すごくセンス良くない!?」



まあ、ここしかなかったし……



「ちょっと!外でバーベキューできるようになってる!しましょうバーベキュー!BBQ(びーびーきゅー)!」


「いや、今日は村吉くんとこでしょ」


「ちょっと!海が見えるわ!海が!夜景で口説く気ね!そうでしょう!?」



小路谷さんは絶好調だった……






■いつかの居酒屋での祝杯―――――

はしゃぐ小路谷さんをタクシーに詰め込んで、以前行った。



(ガラガラガラ)「いらっしゃーい!何名様で?」


暖簾をくぐり、ドアを開けたらすぐに声をかけられた。

やっぱり、居酒屋らしい居酒屋だ。


「あ、先に連れが……」


「おっと、村吉くんだな!ミサキちゃん、お客様2名様、村吉くんとこにご案内」


「はーい!」



安定しているなこの店。

また角のテーブル座敷席に通された。

多分、この店で一番いい席だ。



「おつかれー!」


「お!来たな!お二人さん!」



村吉くんとハツネちゃんが迎えてくれた。



「小路谷さん、今日もきれいだね!(ドスッ)おーうぅ!」



またハツネちゃんのレバー(肝臓)パンチが村吉くんを捉えていた。



「違うって!挨拶だろ!挨拶!礼儀だから!」


「私にも言っていいんだよ?」


「おう、ハツネちゃんきれい!」


「つーん!」



目の前で『村吉劇場』が見れた。

さすが村吉くん。



「ハツネちゃん、この間はありがとー!」


「美穂ちゃん、ぜんぜんだよー!」



何故か両手で握手し合う女子たち。

こういう時なぜ女子たちは、スキンシップが激しくなるんだろう。

でも、絶対男は入れてくれないよな……





「あ、勝手に先、注文しといたぞ!?」


「ああ、全然!今日は、お礼だからご馳走するよ!キープもいいよ!」


「まじかー、なんか嬉しいな!」


「ここで良かったの?もっと高級店でもよかったのに」


「ここ同級生の店なんだよ。ちょくちょくきて金(かね)落としてんの」


「あ、そうなんだ!じゃあ、この店が最適だね」



男性陣用に生ビールのジョッキ、女性陣用に酎ハイがお通しと共に運ばれてきた。

先に注文してくれていたので、その後待たずに料理が運ばれてくる。


唐揚げとお造りが同時に来たし、好きなものを注文したらしい。

その方が、気を使わず、好きな人が好きなものを食べたらいいから良いかと思った。



「じゃあ、完全勝利にカンパーイ!」


「「「カンパーイ!」」」



ごくごくと生ビールを飲んでドンとテーブルにジョッキを置く。

生ビールは、中身は缶ビールと同じって話だけど、店で飲むとこうもおいしいのは何故だろう。



「それにしても、高野倉やったな!売上めちゃくちゃ伸びたんだって!?」


「うん、しばらくは5倍くらいをキープして、最終的に2倍~3倍で落ち着く見込み」


「ヤベえな!儲かってんな!よっ社長!」


「あ、社長は小路谷さんに引き継いだんだ」


「マジ!?小路谷さんが社長!?」



小路谷さんがバックからゴソゴソと何かを取り出す。



「私、こういう者です」



そう言いながら名刺を両手で渡す。



「あ、これはどうもどうも」



つい慣れ的に両手で受け取る村吉くん。

村吉くんの次はハツネちゃんにも渡していた。



「マジかよ!小路谷さん社長だよ!」


「ああ、俺はようやく『雇われ社員』になれた」


「ははははは!相変わらずお前おもしれーなぁー!」



背中をバシバシ叩く村吉くん。



「ちょっとぉ、背中叩かれてなに喜んでんのよ!?」


「いやぁ……///」


「どっせーい!あんたたち気持ち悪いのよ!」



小路谷さんに、タックルされた。



「やめてよ、小路谷さん……」



割とガチで痛かった……



「あれ?お前ら、まだ『小路谷さん』『高野倉くん』なん?呼び方」


「え?」


「もう、そこそこ付き合ってるでしょ?下の名前で呼ばんの?」


「ああ、一度トライしたんだけど、陰キャには下の名前呼びはダメだった……」


「自分のこと陰キャって……ウケる!」



一度トライしたけど、お互い恥ずかしくて、そもそも相手を呼べなくなってしまうという問題が発生した。

だから、結局元に戻って落ち着いている。



「お前ら結婚するんでしょ?二人とも『高野倉』になるよ?」



唐揚げを取ろうとしていた俺の箸が止まった。



「そうだった!夫婦別姓は!?できないの!?」


「残念ながら、まだ日本では無理だな」


「じゃあ、俺が『小路谷』になれば…」


「私はどうすんじゃって!」



小路谷さんのチョップが来た。



「トライしてみたら?」


「今、ここで?」


「そ、今ここで」


「いいじゃない」



ハツネちゃんも参戦してきた。

さっきまで煮魚の骨を取るのに真剣で、一切会話に入ってこなかったのに……



「みっ、美穂さん……///」


「……///」


「ぷっ……」(村吉くん)

「やだー」(ハツネちゃん)




「お前ら、顔真っ赤だぞ!?まだそんなに飲んでないのに!中学生かよ!」


「だから嫌だったんだ……向いていないんだよ俺には……」


「だいたい、俺のことも『村吉くん』だろ?呼び捨てでよくね?」


「それは無理だよー」


「なんで?」


「もっと仲良くなってからじゃないと……///」


「なんだよ、十分仲いいだろ?」


「へへへ……」


「どっせーい!」(ドーン!)


「タックル痛いって!小路谷さん!」


「あんたはまた!男がいいの!?男なの!?」



また胸倉を掴んで怒られている。

ちらりと村吉くんたちの方を見たら、やっぱり大爆笑してる。


ハツネちゃんとか、ちょっと涙まで出てるし……。






■披露宴はどうする問題―――――

ハツネちゃんが、『飲み物は同じのでいいの?』と円滑に次を注文してくれた。



「ところで、お前ら、披露宴どこでやるか決めた?」



村吉くんが、追加で来たジョッキを受け取りながら聞いた。



「式場ってこと?」


「まあ、そう」


「いや、バタバタしてたから結局まだ見れてなくて……」


「多分、何か月も通うことになるから、できるだけ近場がいいぞ?」


「どういうこと?」


「小路谷さん、式ではお色直しするだろ?」


「そうね……ウエディングドレスと、カラードレスは必要そうね」



カラードレスとはなんだろうか……

さすが、女の人は色々知っている。



「それ多分300着くらいの中から決めるから、それだけで5~6回は式場に行くと思う。1か月はかかるな。週末が足りないんだよ」


「は!?」


「あと、会場だろ、テーブルの花だろ、料理だろ、酒だろ、引き出物に引菓子、入場曲とインビテーションカードと……」



村吉くんが、言いながら自分の取り皿に料理を1個ずつ取っていく。

すぐに取り皿がいっぱいになってしまった。

まだあるのか……



「ちょっと待って。もしかして、それ全部決める必要があるの?」


「そう!だから、何か月も前から準備しないといけないから」



仕事より大変だと少し眩暈がしてきていた。

小路谷さんがにっこりかわいい顔で笑っていた。


……はい、もちろん行きます。



「俺たちは、レストランとかで簡単に済ませてもいいかなぁ……レストラン・ウェディングとかってちょっとカッコ良さそうだし……」


「あー、ダメダメ。レストランで結婚式しようと思ったら、必要なもん全部自分で準備する必要あるから倍以上大変だぞ?金(かね)もかかる。式場なら、あるものから選ぶだけ」


「そういう事か……世の結婚する人も、みんなこうなのだろうか……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る