第42話

 (※憲兵視点)


 何か、妙だ……。


 とりあえずあの場では、疑問を口にせずに屋敷から帰ったが、この事件、何かがおかしい。

 一番の疑問は、犯人の証言と、ナターシャの証言が矛盾していることだ。

 まあ普通は、捜査をかく乱するために、犯人が出鱈目を言っていると考えるのが自然だろう。


 しかし、そう考えるのは、本当に正しいのか?


 犯人の証言は、まんざら出鱈目ではない気がしていた。

 確かに、犯人の証言は、ナターシャの証言とは矛盾している。

 しかし、まったくの嘘というわけでもなさそうだ。

 たとえば、犯人は、二階にある部屋に行って、ナターシャに会ったと言っていた。


 もしナターシャの言う通り、彼女は強盗と会っていないとしたら、これは妙な話だ。

 なぜ会ってもいないのに、ナターシャのいる部屋が二階だと、犯人はわかったのか。

 それに、もう一つ、妙な点がある。


 犯人は、ナターシャに壺がある場所まで案内しろと言った。

 しかし彼女は、体が不自由だから一階へ行くのは無理だと答えた、と犯人は証言している。

 これも、妙なことだ。

 

 犯人とナターシャが会っていないなら、どうして犯人は、ナターシャが体が不自由だということを知っていたのだろう。

 まあ、彼女はちょっとした有名人だから、事前に知っていたのかもしれない。

 しかし、犯人はナターシャに一回まで案内してもらったと言っている。

 普通に考えれば、そんなことはありえない。

 体の不自由な彼女が、そんなことできるはずがない。

 

 しかし、犯人は正直に話しているというのが、私の印象だった。

 部屋の場所も、ナターシャの体が不自由だということも、彼は知っていた。

 それは、彼女に会ったからだと、犯人は主張している。

 それなのに、そこでわざわざ、ナターシャが歩いて案内したと、嘘を言う必要など、どこにもない。


 そんな嘘を言えば、ほかの証言だって、信じてもらえなくなると考えるのが普通だ。

 偽証すれば、裁判で不利になることくらい、誰だって知っている。

 それなのにわざわざ、彼女が歩いていたという、嘘だと言われるような証言をするか?


 どうも引っかかる。


 私は、もう一度犯人に取り調べをした。

 すると彼は、妙な提案をした。


「だから、本当に会ったんだよ! 信じてくれ! おれは嘘なんて言っていない! そうだ! 面通しをしてもいいぞ! 百人連れて来てもいいぞ! 実際に会ったんだから、あの屋敷で会ったのが誰なのか、一発で答えることができる!」


 面通しというのは普通、犯人に対して行われるものだが、その犯人が行うというのは、変な話だ。

 しかしそれは、試す価値があると、私は思った。

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