第43話

 (※憲兵視点)


 なんてことだ……。


 さすがに百人は無理だったが、私は二十人の人を集めた。

 そして、面通しを行った結果、犯人は迷うことなく、ナターシャを指差した。


「おれが屋敷で会ったのは、あの女だ」


 いったい、どうなっている……。

 本当に、犯人はナターシャと会っていたのか?

 もちろん面通しは、全員車椅子に座って行われた。

 それでも犯人は、ナターシャを指差したのだ。


 犯人の言っていることは、本当のことなのか?


 いや、まだ断定することはできない。

 ナターシャが何度も新聞に載って有名なので、事前に彼女のことを知っていたという可能性を否定できないからだ。


 そこで私は、捜索令状を取ることにした。

 ナターシャの部屋の指紋を取れば、犯人の証言が事実かどうかわかる。

 彼女の部屋に犯人の指紋があれば、彼の証言は本当だということになる。

 犯行時刻、ナターシャは部屋で本を読んでいたと証言した。

 いくら本に夢中でも、部屋に人が入ってくればさすがに気付く。

 もし犯人の証言が本当なら、嘘をついていたのはナターシャということになる。


 そしてもし本当に、ナターシャが嘘をついているとしたら、どうして彼女は嘘をついたのかという疑問に行きつく。

 その理由を、私は考えた。

 そして、ある考えが浮かび、背筋がぞっとした。

 

 もし今私が考えたことが事実なら、これは、前代未聞の出来事だ……。

 本当に、そんなことがあるのか?

 いや、落ち着くんだ。

 今はまだ、何も確定していない。

 捜査中に先入観を持つべきではない。

 

 まずは、ナターシャの部屋で指紋を採取することが先決だ。

 しかし、その許可を得るための令状がとれるかどうかは、五分五分といったところだった。

 そして、その結果を聞いて、私は落胆した。

 令状は取れなかった。

 憶測の域を出ていないというのが、理由だった。


 確かに、その通りだった。

 しかし、思わぬところから、助け船が来た。

 その屋敷の主人である、レイチェルから、捜索の許可が下りた。

 ありがたいことだ。

 これで、あの部屋で指紋を採取することができる。


 犯人は手袋をしていなかった。

 前科はなかったから、指紋を取られるリスクは考えていなかったらしい。

 それにこの時期は、手袋をしていたら周りから妙に思われるし、そもそも暑いのでつける発想すらなかったそうだ。


 浅はかだが、今はそれが好都合だった。

 犯人から、ナターシャの部屋で触った大体の場所を教えてもらった。

 そして、彼女の部屋にある指紋を採取した。


 その結果は……。

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