第40話

 (※アーノルド視点)


「あなたは本当に、強盗がこの屋敷に入ってきたことを、知らなかったのですよね?」


 憲兵が、ナターシャに質問した。


「ええ、知りませんでした。今日初めてそんな話を聞いて、驚いています」


「しかし、妙なことなのですが、犯人があなたと話したと言っているんですよ」


「え……」


 憲兵のその話に、私は驚いた。

 ナターシャも、驚いていた表情をしている。

 いったい、どういうことだ!?

 犯人とナターシャが会っていた?

 彼女は立った今、強盗があったことを知ったばかりなのに、そんなことはありえない。


「その犯人が言うには、盗まれていた壺のところまで、あなたに案内してもらったそうです」


「……私に、ですか?」


 憲兵の言葉を聞いて、ナターシャを不思議そうな表情をしていた。


「ええ、この部屋に入ってきて、ナイフを見せて、あなたを脅したと言っています。そして、金目の物はないか質問して、一階にある壺のところまで、あなたに案内してもらったと証言しています」


「いえ、身に覚えがありませんけど……」


 憲兵の話に、ナターシャは困惑している様子だった。


「そうですよ、憲兵さん。そんなこと、ありえませんよ。だって、ナターシャは、体を思うように動かすことができないんですよ? それなのに、一階にある壺のところまで、どうやって案内するんですか? 彼女は普段、車椅子を使っていますが、この部屋には置いていません。私が隣の空室から持ってきて、使っているんです。それに、この屋敷の一階へのアプローチは、階段しかありません。スロープもないのに、どうやって彼女が、一階にある壺のところまで案内したって言うんですか? そんなの、その犯人のでたらめですよ」


「……確かに、そうですね」


 憲兵は顎をさすりながら答えた。

 それから、憲兵には、強盗があった時間に、何をしていたか尋ねられた。

 私は出掛けていて屋敷にはいなかったと答え、ナターシャは部屋で本を読んでいたと答えた。

 強盗が入ってきたことには気づかなかったのかと、彼女は憲兵に聞かれたが、強盗もバレないように音を出さなかっただろうし、自分も本を読むのに夢中になっていたから気付かなかったと答えた。


「では、私はこれで失礼します。また何かありましたら、お伺いさせていただきます。あなたたちも、何か言い忘れていたことや、気になることがあれば、いつでもお話しください」


「わかりました」


 憲兵は、屋敷から出て行った。

 いったい、なんだったんだ……。

 急に強盗が入ってきたとか言われて驚いたが、よくわからない話だった。


 妙な証言をしている強盗がいることはわかったが、この時の私はまだ、それ以上のことは何も考えていなかった。

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