第32話

 (※ナターシャ視点)


 アーノルドの様子が、少しおかしい。


 もしかして、私のことを、疑っている?

 愛する人を疑うなんて、信じられないわ。

 いや、愛する人に嘘をついている私に言える義理はないか……。

 でも、彼は多分、私のことを疑っている。


 それは、彼の行動が、明らかに怪しいからだ。

 私は第六巻を読み終えたので、七巻を彼に取ってもらおうと思った。

 何度か頼んだけど、彼は何かと理由をつけて部屋から出て行き、私の頼みを聞いてくれなかった。

 そして、そんなことをしていると、数日が経過した。


 さすがに、もう我慢できない。

 私は、七巻を手に取るのを我慢していた。

 しかし、それも限界だった。

 今まで我慢していたのは、アーノルドに怪しまれると思っていたからだ。

 

 次の巻を読んで、彼が部屋に来る前に前の巻と入れ替えておけば、問題はない。

 しかし、私は本を読むのに夢中になって、彼が来ることに気付かなかったことが何度かあったので、その方法は危険だと判断した。


 たぶん、彼の勘違いで済ますのにも、そろそろ限界だと思う。

 もしかしたら、勘違いではないと証明するために、メモをしているのかもしれない。

 もしメモをしていて、私が六巻以外の本を読んでいるところを彼に見られたら、私の嘘が証明されてしまう。

 だから、私は数日の間、続きを読むのを我慢していた。

 しかし、それも我慢の限界である。


 アーノルドが、外に出かけた。

 今日は、夜まで戻ってこないそうだ。

 これは、チャンスだと思った。

 私は第七巻を手に取り、読み始めた。

 今まで我慢していたこともあり、どんどんと読み進めていった。

 そして、気付けば第七巻も読み終えていた。


 まだ、日が沈みかけている時間帯だ。

 アーノルドが帰ってくるまで、まだ時間はあるはず。

 私は第八巻を手に取り、読み始めた。


 しかし、八巻を読み始めてから一時間程で、突然アーノルドが部屋に入ってきた。

 私は本を読むのに夢中で、彼が帰ってきたことにすら気付かなかった。

 そして、彼は私が持っている本を見た。


「あれ? 君が呼んでいたのって、六巻じゃなかった?」


「何を言っているの? 私が読んでいたのは、八巻よ。最近は、勘違いが多いわね」


「確かに、そうだな。悪かったよ、私の勘違いだったみたいだ」


 彼はそういうと、部屋から出て行った。

 彼は、勘違いではなかったということを証明できない。

 だから、私が嘘をついていることも証明することはできない。

 私は、八巻の続きを読み始めた。


 しかし、また部屋に、アーノルドがやってきた……。

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