第28話
(※アーノルド視点)
ナターシャが座っている車椅子を押しながら、私は考え事をしていた。
やはり、どこか引っかかる。
私は何度も、納得したはずだ。
彼女は嘘をついてなどいない。
何度もそう思おうとした。
しかし、どうしても頭の中で、レイチェルの言葉がちらつく。
ナターシャは、万能薬が効いていないと嘘をついている。
そんなこと、あるはずがないのに。
さっきだってそうだ。
彼女は、足で踏ん張って車椅子を動かしたわけではない。
手でテーブルを押して、車椅子を動かした。
本人がそう言っている。
だったら、それでいいじゃないか。
どうして私はまだ、彼女のことを疑ってしまっているんだ……。
店員が飲み物を落とした時、ナターシャはサンドイッチを食べていた。
彼女は片手に、サンドイッチを持ったままだった。
そんな状態で、テーブルを押せるのか?
押したのなら、片手で押したのだろう。
体が弱い彼女に、そんなことができるか?
サンドイッチを食べながら片手間に、落ちてきた飲み物を躱すなんて、体の弱い彼女に、本当にできるのか?
いや、何を考えているんだ。
ナターシャ自身が、そうだと言ったなら、そうに決まっている。
彼女がどうやって動いたか、私は見ていなかったのだから、彼女の言葉を信じるしかない。
「ちょっと、アーノルド! 危ない!」
私はナターシャの言葉で、我に返った。
もう少しで、大きな段差にぶつかるところだった。
「す、すまない。ぼうっとしてしまって……」
まったく、何をしているんだ、私は!
考え事をしてナターシャを危険に晒すなんて、最低だ。
私は深く反省した。
もう、彼女を疑うようなことを考えるのはやめよう。
私たちは気を取り直し、デートを再開した。
しかし、私の頭には、ある考えがよぎった。
さっき、段差にぶつかりそうになった時、どうやって車椅子は止まった?
彼女は、足で踏ん張っていなかったか?
いや、はっきりと見ていないので、確かなことはいえない。
車椅子のブレーキは、手で使えるところについているから、普通にそれを使ったのかもしれない。
考え事をしてぼうっとしていたから、よく見ていなかった。
でも、おそらくブレーキを使ったのだろう。
これはよくない。
一度疑ってしまってからというもの、ずっと何かあるたびに、彼女を疑ってしまっている。
彼女は嘘をつくはずがないと、信じてあげることもできないなんて。
どうしてしまったんだ、私は……。
愛する人の言葉すら、信じられない人間になってしまったのか?
その後のデートは、順調に進んだ。
ナターシャは楽しそうだった。
私も楽しかった。
しかし、心の底から楽しんだかといわれれば、疑問が残ってしまう。
このままではだめだ。
彼女が嘘をついているのか、はっきりとさせたい。
そうすれば、このモヤモヤも消えてくれるはずだ。
そして私には、それを確かめる方法がある。
私は、レイチェルからもらったあれを、使うべきなのか?
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