第27話
(※アーノルド視点)
私は大きく息を吐いた。
どうかしていた。
ナターシャを疑うような発言を、私はしてしまった。
彼女は、傷ついていないだろうか。
ここ最近、どうしても彼女のことを疑ってしまっていた。
彼女が嘘をつくなんて、あるはずがないのに。
とにかく、彼女が無事でよかった。
「申し訳ありません、お客様! お怪我はなかったですか?」
「ええ、大丈夫よ。それよりも、今落としてしまった飲み物、お客さんのところへ持って行く途中だったのでは? そのお客さんが、待ちくたびれていますよ。私のことはもういいですから、お客さんのところへ、新しい飲み物を持って行ってあげてください」
「はい!」
店員はキッチンの方へ戻っていった。
あぁ、なんて素晴らしいな対応なんだ。
危険な目に遭っても、ほかのお客さんのことを気遣うなんて。
そのやり取りを見ていたほかの人たちは、さっきまでの疑いの目を向けることはなかった。
もちろん、この私もだ。
あんな優しい彼女が、嘘をついているなんて思えない。
やはり、彼女は本当に、万能薬が効いていなかったのだ。
レイチェルの言葉のせいで、惑わされてしまっていた。
考えるまでもなく、わかっていたことじゃないか。
あのナターシャが、嘘をつくなんてこと、するはずがないと。
さて、今日のデートはまだまだ続く。
余計なことを考えないで、彼女とのデートを楽しもう。
*
(※ナターシャ視点)
ふぅ、何とかなるものね……。
一時は、どうなることかと思った。
アーノルドを含め、さっき周りのみんなが見せた表情にはひやりとした。
あきらかに、私を疑う目つきだった。
今まで同情され、優しくされていただけに、そのギャップが恐ろしかった。
もう、あんなことにはならないようにしないと……。
そのためには、疑われるような行動をしないように、常に気を張っておく必要がある。
まあ、でも、これで、とりあえずこの場は乗り切ることができたわ。
でも、本当に注意しないといけないわね。
今回は何とかなったけど、同じようなことが続けば、私の嘘がバレる可能性がある。
それだけは、絶対にあってはならないことだ。
これからも、まだアーノルドとのデートは続く。
充分に注意しなければならない。
いや、デートの最中だけではない。
屋敷にいる時だって、気をつけないといけない。
私は一時だって、気を抜くことができない。
絶対に、疑われるような行動をとってはダメだ。
正直言って、常に気を張っているのはかなりのストレスだけど、幸せな生活を守るためなら、これくらいのことはしかたがない。
私の集中力なら、きっとできる。
二十四時間、絶対にぼろを出さない。
一瞬たりとも、疑われるようなことはしない。
しかし、私が思っていた以上に、それは難しいことだった……。
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