第26話
(※ナターシャ視点)
注文していたサンドイッチが来た。
コーヒーもセットである。
私たちは、しばらく食事を楽しんでいた。
「あぁ、このサンドイッチ、美味しいわね。このお店に来てよかったわ」
「そうだね。コーヒーもいい香りだし、この店を選んでよかったよ」
デートも楽しくて、何も問題は起きなかった。
と思っていたけど、あるアクシデントが起きた。
店員が、ほかの席のお客さんに飲み物を運んでいた。
しかし、私たちの席のすぐ近くで、彼はつまづいた。
その光景が、まるでスローモーションのように見えた。
店員が持っていた飲み物が、私の方にめがけて飛んでくる。
液体が宙を舞い、私に向かって来ていた。
あの液体が、冷たいのか熱いのかは、わからない。
しかし、暑くても冷たくても、あの液体がかかれば、これからのデートが台無しになってしまう。
私は咄嗟に、車椅子のタイヤのロックを解除して、足で地面を蹴って車椅子ごとうしろに動いた。
液体は、さっきまで私がいたところに落ちた。
ふぅ……、危ない。
間一髪だった。
私の向かい側に座っているアーノルドも、驚いている。
もう少しで私に飲み物がかかるところだったのだから、当然である。
きっと、不注意な店員のことを、叱ってくれるに違いない。
そう思っていたけど……。
「ナターシャ、君、よく今のを避けることができたね……」
あ、驚いていたのって、そういうこと?
店員の不注意に気を取られていたけれど、よく考えれば、今の私の行動の方が不注意だったかもしれない。
私は身体が思うように動かないのだ。
いや、実際には動くけど、周りの人たちはそう思っている。
少し手を動かしたりとかはできるけど、とっさに今のような回避ができるとは思われていない。
なんてことなの……。
避けるのに夢中で、そこまで気が回らなかったわ……。
アーノルドだけではない。
店にいるほかの人たちも、私の方を見ていた。
私は何とか、言い訳を捜した。
「ほら……、あれよ。今日の新聞に書いていた占いに、液体に注意って書いていたのよ」
これは、嘘ではない。
本当に書いていたことだ。
今まで完全に忘れていたけれど。
「だから、無意識のうちに、注意していたのよ。だから、避けることができたのよ」
「でも、君は足で地面を蹴って車椅子を動かすことなんてできないだろう?」
アーノルドが、こちらを見ながら言った。
今まで見たことないような、疑いの眼差しだった。
「それは、あれよ。テーブルを手で押したの。それくらいなら、私にだってできるわ」
「確かに、そうだな。すまない、変なことを言って」
「いいのよ、気にしないで」
私は笑顔で答えた。
アーノルドも、それに対して微笑んでくれた。
さっきまでの変な空気は、消えていた。
よかった、何とか誤魔化せた。
これからは、とっさに動くときも、注意しないといけないわね。
そうしないと、私の体が治っていることが、バレてしまうわ……。
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