第24話

 (※アーノルド視点)


 私は屋敷を出て、外を歩いていた。


 さっきの光景が、頭から離れない。

 私が巻数を指摘した時、ナターシャは一瞬だけ顔色が悪くなったような気がした。

 あれは、私の気のせいだったのか?


 そのことがずっと気になって、とりあえず気分転換に散歩をしているけど、あまり効果はなかった。

 いや、何を考えているんだ、私は。

 あのナターシャが、嘘をつくはずがないじゃないか。

 そうだ、あれは、きっと気のせいだ。

 

 三巻を持っていたはずが四巻になっていたのではなく、最初から四巻だったのだ。

 彼女が嘘をつくよりも、私が勘違いしていた可能性の方が高い。

 そうに決まっている。

 私は気持ちを切り替え、屋敷に戻った。

 そして、ナターシャの部屋に入った。


「え……、アーノルド、もうもどってきたの!? ノックしてよね」


「ああ……、すまなかった。いつもは、ノックなんてしないから……」


 どうして今更、ノックなんて気にしているのだろう。

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。

 明日、どこへ行くのかを、話し合って具体的に決めよう。

 久しぶりのデートだから、楽しみだった。


 しかし、私はあることに気付いた。


「ナターシャ、君、それ……」


 私は彼女の側にあった本を指差した。

 殺気は四巻だったはずなのに、今は第五巻になっている。


「さっきそこにあったのは、四巻じゃなかったか?」


「え、何言っているの? ずっと、ここにあったのは五巻よ」


 ナターシャは、不思議に思っているような表情でこちらを見ている。

 なんだ?

 また、私の勘違いだったのか?


「アーノルド、あなた少し疲れているみたいね。今日のあなたは、珍しくうっかりさんだわ」


「あ、ああ、そうみたいだな……」


 やはり、私の勘違いだったのか……。


「そのうっかりも、万能薬を飲めば治るかもしれないわ」


 彼女は笑いながら言った。

 どうやら、冗談のつもりらしい。


「はは……、そうだな……」


 その冗談に、私も笑顔を返した。

 きっと、気のせいだ。

 そう思うことにした。

 しかし、心のどこかでは、そうではないかもしれないと疑っていた。


 彼女の言う通り、私は疲れているのか?

 それとも彼女に、嘘をつかれているのか?

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