第22話
「どうして、ナターシャさんには万能薬が効かなかったのでしょうか?」
「わからないわ。彼女が検査に協力してくれない以上、何もわからない。私たちにできるのは、万能薬の調合や過去の実験を見直して、原因を探ることだけよ」
これも私の本心だった。
ナターシャが嘘をついていることは、証明できない。
もしかしたら本当に、彼女には万能薬が効いていないのかもしれない。
まあ、彼女のことを知っている私は、そんなことはないと確信しているけれど。
さて、面白い展開になってきていた。
訪ねてきたアーノルドに、私は万能薬と、あるものを渡した。
それさえあれば、ナターシャが嘘をついているかどうか、検査をしなくても確かめることができる。
ただ、今はまだ、彼はそれを使おうとは思わないだろう。
しかし、いつかはその時が訪れるはずだ。
ナターシャが嘘をついていると、一度でも疑えば、必ず疑いは大きくなっていく。
そうなれば、彼は確かめずにはいられなくなるだろう。
その時、私が渡したあれが、きっと役に立つはず。
その時が来るのを、私は楽しみに待っていた……。
*
(※アーノルド視点)
私とナターシャは、相変わらずレイチェルの屋敷で暮らしている。
私たちは、幸せな毎日を送っていた。
しかし、レイチェルが言った仮説は、早く忘れようとしているが、まだ頭から離れてくれない。
まあ、それも、幸せな毎日を送っていれば、そのうち忘れるだろう。
あまりに衝撃的だったからまだ頭に残っているだけで、きっと時間が解決してくれる。
私はナターシャと部屋で話しながら過ごしていた。
新しいお店ができたから、そこへ行きたいとか、前から気になっていたカフェに行ってみようとか、そんな話をしていた。
私も彼女と、どこかへ出掛けたいと思っていたので、明日、ナターシャの好きなところへ行ってみようということになった。
しかし、離している途中で、私はあることに気付いた。
背筋がぞっとするような感触がした。
「ナターシャ、それ……」
私は、彼女の近くに置いてあった本を指差した。
彼女が本を読むときは、いつも私が本棚から読む本を取っている。
そして、彼女は今、フィクションの本を読んでいる。
何巻かシリーズが続いていて、彼女は最近ずっとそれを読んでいる。
べつに、それは問題ない。
問題なのは、彼女の近くにある本の巻数だ。
昨日は、三巻を読んでいた。
しかし、彼女の近くに置いていある本は四巻だった。
いったい、どうして……。
思うように動けないはずの彼女が、本棚の高いところにある本をとるなんて、できないはずだ。
「君が昨日読んでいたのは、三巻だったよな?」
「え……」
ナターシャの顔色が、変わったような気がした。
しかし、それは一瞬のことだったので、気のせいだったかもしれない。
「アーノルド、何を言っているの? 私が昨日読んでいたのは、これよ。第四巻。あなたが勘違いするなんて、珍しいわね」
「あ、ああ、そうだな……」
なんだ、私の勘違いだったのか……。
しかし、さっき一瞬、ナターシャの顔色が変わっていたような……。
いや、それもきっと、気のせいだろう……。
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