第21話
(※アーノルド視点)
あれからずっと、レイチェルが言った言葉が頭から離れなかった。
そんなことはないと思いつつも、どうしても頭の中から消えてくれない。
先日彼女に会いに行った時、どうしてナターシャにだけ万能薬が効かないのか尋ねた。
そして彼女は、ある仮説があると答えた。
しかしそれは、到底信じることなどできない内容だった。
ナターシャが、嘘をついている。
それが、レイチェルが語った仮説だった。
現在わかっていることからは、そうとしか考えられないと、彼女は言った。
検査ができない以上、仮説は仮説のままでけど、その仮説を否定することもできないと彼女は言った。
しかし私は、その考えを否定した。
当然だ。
あのナターシャが嘘をつくなんてことが、あるはずがない。
世間が、私が期待の眼差しを向けて、期待していたのに、それに対して嘘をつくなんてこと、あるはずがない。
しかし、どうしても、その仮説が頭から離れなかった。
私はそれとなく、ナターシャに検査を受けるように進めてみた。
しかし、彼女はそれを否定した。
万能薬が効かなかったことによって、彼女は開発室の人たちを信用しなくなった。
彼らがいくら検査を勧めても、私が彼らに頼まれて説得しても、彼女は拒否し続けている。
私はナターシャのことを信じている。
彼女は嘘なんてついていない。
本当に万能薬が効いていないと、私は思っている。
それを確かめるには、検査をするしかないと、レイチェルは言った。
しかしそれは、表向きは、ということだった。
あの日彼女は、ナターシャが嘘をついているか確かめる方法はまだあると言った。
そして、私に万能薬と、あるものを渡した。
私は、レイチェルから渡されたものを見て、彼女が何を言おうとしているのかわかった。
しかし、私はそんな方法で、ナターシャが嘘をついているか確かめるつもりなどなかった。
私は、ナターシャのことを信じている。
私たちは、愛し合っている。
嘘なんて、絶対についていない。
それを確かめる行為は、彼女への裏切りになる。
だから私は、万能薬とあれを、ずっと引き出しにしまったままだ。
レイチェルが語った、ナターシャが嘘をついているという仮説は、早く忘れよう。
そして、今まで通りの生活にもどればいい。
別に体が治らなくても、私がナターシャを愛していることに変わりはない。
それでいいじゃないか。
無理をして、彼女が嘘をついているか確かめる必要なんてない。
そう思っていた。
そう思っていたが、私はある日から、彼女のことを疑うようになるのだった……。
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