第20話

 (※ナターシャ視点)


 私が万能薬を飲んでから、既に何か月も経っていた。


 しかし、私は相変わらず、レイチェルの屋敷に住んで、アーノルドに看病してもらいながら生活している。

 病弱な私を追い出せば、レイチェルは非難されるので、彼女は私をまだ屋敷から追い出すことができていない。

 私が病弱である限り、楽で幸せなこの生活は、ずっと続くのである。


 私はずっとこの屋敷で、アーノルドと幸せな生活を送るつもりだ。

 もし私が病弱でなくなれば、大変なことになる。

 病弱でないと分かれば、レイチェルは遠慮なく、私は屋敷から追い出すことができるし、病弱だから大目に見てもらっていた過去の行いのツケを、払わなくてはいけなくなってしまう。


 そんなことは、絶対に嫌だった。

 だから、レイチェルの考えた策には、正直焦った。

 私を病弱ではなくすために、まさか万能薬まで作るとは思わなかった。

 しかも、私の性格からして、万能薬を飲むことを拒むことも看破していて、そのために手を打っていた。

 

 これには正直やられた。

 悔しいけれど、彼女の方が何枚も上手だった。

 しかし、万能薬を飲ませたまでは彼女の計算通りだっただろうけど、結局は、その万能薬の効果が出なければ、意味がない。


 彼女の苦労は、水の泡というわけだ。

 私はこれからも、この屋敷に居座ってやるわ。

 絶対に、出て行くことなんてない。

 こんなに素敵な生活を、手放すわけがない。


「ナターシャ、料理ができたよ」


「ありがとう。ああ、美味しそうだわ」


 アーノルドが、用意してくれた料理は、本当に美味しい。

 彼はいつも、私を甘やかしてくれる。

 彼にずっと甘えられるのは、とても居心地がよかった。

 こんな幸せな生活が送れるようになったのも、すべてはあの事故があったおかげだ。


 事故に遭った時は絶望したけど、その見返りとして、神様は私に素敵な生活を用意してくれた。

 私は今の生活に、満足していた。

 

 さて、今や世間では、私は万能薬が効かなかった唯一の人物として知られている。

 唯一の希望だった万能薬が効かなかった可哀想な人物として、私は世間から深く同情されていた。

 町に出れば、皆が応援の言葉を私にかけてくれる。

 みんなが私のことを気にかけてくれていて、そのことで私も気分が良くなった。


 そして、肝心の万能薬の効果はというと……。


 あの時、万能薬を飲んだ時は驚いた。

 もう、飲んだ瞬間にわかった。


 万能薬は、


 だって、飲んだ瞬間、体から力が溢れてくるよな感じがしたから。

 思うように動かなかった重い体が、翼でも生えたかのように軽く感じられたから。

 私は一瞬で、万能薬が効いている理解した。


 でも、私は嘘をついた。


 万能薬の効果はなかったと、世間のみんなに信じ込ませた。

 アーノルドにさえ、本当のことを言わなかった。

 だって、そんなことを言えば、私の幸せな生活が、終わってしまうから。


 あれだけ期待していたアーノルドにまで嘘をついたのは、正直心苦しかった。

 しかし、幸せな生活を守るためには、仕方がなかった。

 彼もきっと、許してくれるだろう。


 残念だったわね、レイチェル。

 あなたはいろいろと策をめぐらして頑張ったようだけど、すべては無駄だった。

 いくら万能薬を完成させ、それを私に飲ませても、効果が現れなければ意味がないのよ。

 

 そして、効果が現れたかどうかは、私の言葉を信じるしかない。

 検査なんてさせない。

 彼らには、強制的に検査をする権利は当然ない。

 だから結局は、私の言葉を信じるしかない。

 あぁ、完璧だわ。


 これで一生、私はこの楽で幸せな生活を続けることができるわ……。 

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