第16話

 翌日の新聞には、一面にナターシャの記事が掲載されていた。


 たくさんの人々の体を治してきた万能薬が、初めて効かなかったと書かれていた。

 そのことで、私はいろいろと質問攻めにされた。


 どうして効かなかったのか、何か不備があったのではないか、聞かない人がいるなら万能ではないなど、いろいろと言われることになった。

 しかし、私は誰よりも万能薬のことを正確に理解している。

 あの万能薬は、間違いなく本物だった。


 もちろん、何か不備や見落としがあった可能性も、ゼロではない。

 万能薬を作ったからといって、慢心するのはよくない。

 自分たちが失敗したことの可能性を考えない程、私たちは思い上がってはいない。

 しかし、私は確信していた。

 万能薬は、間違いなくナターシャに効いた。

 それなら、なぜ、ナターシャの体は動かないままだったのか。


 それは、彼女が嘘をついているからだ。


 本当は万能薬が効いたのに、効いていないと嘘をついている。

 ほかの人たちにはあれだけ効いていた万能薬に不備があったと考えるより、そちらの方が可能性がかなり高い。

 実際、あれから数か月が経ち、万能薬を量産した。

 そして、それを飲んだ人たちは、全員体が治っていた。

 ナターシャだけが、万能薬の効果が表れていない。


 正確にいえば、表れていないと、本人が主張している。


 私の復讐の計画は、彼女に万能薬を飲ませることだった。

 そして、万能薬を飲んだ彼女は身体が完治し、世間からも同情されなくなる。

 これからは好き勝手に振る舞うこともできず、それどころか今までの好き勝手な振る舞いも非難される、そういう展開を予想していた。

 

 しかし、そうはならなかった。

 でもそれは、私が予想していた展開のうちの、一つでしかない。

 私は、彼女が万能薬が効いていないと主張することも想定していた。

 そして、そちらの方が、後々面白い展開になる。


 万能薬が効いていないとナターシャが主張した時も、私はバレないように俯いて、笑みを浮かべていた。


 私の計画は、彼女に万能薬を飲ませるまでで、あとは彼女次第である。

 べつに、万能薬の効果が表れても、そうでなくても、どちらでも復讐は果たされる。


 私が準備したのは、万能薬を飲ませるまでだ。

 彼女が必ず万能薬を飲むように、記者たちを集め、彼女が飲まざるを得ない状況を作った。

 その時点で、私の計画は完遂されている。

 跡は彼女次第だったけれど、彼女は最悪の選択をした。

 あのまま万能薬が効いて、過去の行いの制裁を受けていた方が、まだマシだった。


 さて、これからどうなるか、楽しませてもらいますか……。

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