第15話
(※アーノルド視点)
私が万能薬の入った瓶を、ナターシャの口へ近づけた。
瓶の中に入った液体は、彼女の口の中へと流れた。
そして、それを彼女は飲み込んだ。
私はその様子をじっと見ていた。
あぁ、やっとだ……。
この瞬間を、私はどれほど待ち望んでいただろう……。
思えば、彼女を看病する生活も長かった。
しかし、そのことがきっかけで、彼女との仲が深まったのだ。
そしてこれからは、自由に動けるようになった彼女と、さらに楽しい生活を送ることができる。
私はそのことが嬉しかった。
本当に、ずっとこうなる日を待ち望んでいたのだ。
記者たちも、万能薬を飲んだナターシャにカメラを向けて、何度もシャッターを切っている。
この瞬間を、世間の人も待ち望んでいたのだ。
不自由な体が完治して、自由に動けるようになる姿を、皆が期待している。
この喜びを、皆で分かち合えることができる。
「どうですか? 体の方はいかがですか?」
「万能薬の効果は、実感していますか?」
「今、どんなお気持ちか聞かせてください」
「世間の人に向けて、何か一言お願いします」
記者たちが次々に言葉を浴びせる。
ナターシャは、戸惑っているようだった。
一気に言葉を浴びせられたせいか、それとも、自由に動くようになったからだに、驚いているのか。
そう思っていたが、そのどちらでもなかった。
彼女は、信じられない言葉を発したのだった。
「あの……、体が、思うように動きません」
「え……」
私は驚いた。
それに、驚いたのは私だけではない。
記者たちも驚いていた。
「あの、体が思うように動かないとはどういうことでしょうか?」
「喜びのあまり、体を動かせないということですか?」
「まだ、治った実感がないということでしょうか?」
記者たちが次々と質問を浴びせる。
体は治ったが、心がついていけていない、そういう意味だと思っていた。
しかし、ナターシャの返答は……。
「いえ、今まで通り、体が動かないのです。万能薬の効果は、何もありません」
「ど、どういうことでしょうか?」
「万能薬が効いていないのですか?」
「効果が出るまでに、まだ時間がかかるのでしょうか?」
「いえ、今まで摂取した人は、すぐに効果が表れていました。こんなことは、初めてです」
レイチェルが答えた。
「どういうことですか? なぜ、ナターシャさんには、万能薬の効果が現れないのですか?」
「わかりません。こんなことは、初めてなので……」
レイチェルは少しうつむいていた。
万能薬が効かなかったことが、よほどショックだったのだろうか……。
「まさか、万能薬が効かないなんて……。嘘だと言ってくれ、ナターシャ。本当に、体は動かないままなのか?」
私はナターシャに泣きついてしまった。
情けないが、それほど私はショックだった。
「アーノルド、本当に、体が動かないままなの。私もショックだわ。でも、ただ、これまで通りというだけよ。私が死んだわけじゃないんだから、そんなに落ち込まないで」
ナターシャが私に微笑みかけた。
まさか、万能薬をもってしても、彼女の体が治らないなんて……。
いったい、どうなっているんだ?
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