第3話

 (※アーノルド視点)


 私は遂に、ナターシャと結ばれることができた。


 この時を、どれだけ待っていただろう。

 実は、幼いころから彼女のことは異性として意識していた。

 しかし、それを表に出すことはなかった。

 彼女との関係を壊すことが怖かったからだ。

 

 そうして幼馴染として、何年も彼女の側にいた。

 しかし、そんな私に縁談の話が舞い込んできた。

 相手は、伯爵家の令嬢だ。

 お互いの両親が話を持ち掛け、決まったことだそうだ。


 そして私たちは、婚約をした。

 べつに、すぐに婚約をする必要はなかった。

 数年後でも構わないと言われていたが、どうせ、いつかは婚約するのだからということで、私たちは婚約した。

 私は向こうの屋敷で暮らすことになった。


 その間もずっと、心のどこかでナターシャのことが気になっていた。

 そんな時だった。

 彼女が事故に遭ったという報告を聞いたのは。

 私はすぐに彼女の元へ向かった。


 彼女は何とか一命をとりとめたものの、元のような生活を送ることができなくなっていた。

 私は後悔した。

 私が勇気を出して彼女との関係を進めていれば、あるいはこんなことにはならなかったのかもしれない。

 そんな罪悪感のようなものを感じた。

 だから私は、彼女のためなら何でもしようと決心した。


 レイチェルに頼み込み、ナターシャを屋敷に住まわせてもらえるように頼んだ。

 そして彼女は、それに承諾してくれた。

 私は安心した。

 これでナターシャを、少しは助けることができる。

 彼女のために尽くすことで、少しは私の罪悪感も晴れるような気がした。


 しかし、ある時から、私はナターシャからの好意に気付いた。

 そのことが私は、嬉しかった。

 そこからは、私たちの関係は一気に進んだ。

 しかし、ずっとコソコソとするのにも、不満を感じるようになった。

 そして私は、レイチェルとの婚約を破棄する決意をした。


 婚約破棄する前に、そのことを私の両親に伝えた。

 すると両親は、顔が真っ赤になった。

 そんなことをするのなら、お前を勘当すると言われた。

 しかし、私にはそんなことは関係なかった。


 私には、ナターシャさえいればいいのだ。

 勘当されようが、べつにどうということはなかった。

 しかし、そうはいっても、ナターシャとの生活には当然ながら、お金がかかる。

 ナターシャを看病しながら働くのは不可能である。

 そこで私は、一つの案を思い浮かべた。


 婚約破棄をしても、このままレイチェルの屋敷に住み着けばいいのだ。


 ナターシャが病弱であることは、このあたりに住んでいる人なら誰でも知っている。

 それに、そんなナターシャを、レイチェルが自らの意思で住まわせていることも周知されている。

 つまり、ナターシャを屋敷から追い出せば、レイチェルは非難されること間違いなしだ。


 ただ非難されるだけでも、効果は絶大だ。

 なぜなら、彼女は伯爵家の令嬢だ。

 貴族というのは、世間体というのをかなり気にする。

 彼女が私の提案を断ることができないのは、自明だった。


 そして私は、レイチェルに婚約破棄を言い渡した。

 さらに、婚約破棄したうえで、私たちの生活を保障させることに成功した。

 こうして私とナターシャは、幸せな生活を手に入れたのだった。

 この幸せが、いつまでも続くと思っていた。

 しかし、それは間違いだった。


 私はナターシャとの幸せを選択したことを、後悔することになるのだった……。

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