第2話

 (※ナターシャ視点)


 屋敷にある一室で、私はベッドに横になり、喜びをかみしめていた。


 ああ、ついにこの時が来たわ……。

 レイチェルから、婚約者であるアーノルドを奪うことができた。

 この瞬間を、長年夢見てきた。

 ずっと私は、アーノルドと一緒になりたかった。


 でも、幼いころから、アーノルドは私のことをただの幼馴染としか見ていなかった。

 関係がそれ以上発展する気配を感じなかった私は、かなり悩んだ。

 このまま幼馴染としての関係を続けるのか、それとも、勇気を出して彼に思いを継げるのか。

 悩んだ末、私が選択したのは前者だった。

 幼馴染である彼との、居心地の良さやその関係を失うのが怖かったのだ。


 でも、それは間違いだったと、後に気付いた。

 

 アーノルドが婚約したのである。

 相手は伯爵令嬢。

 つまり、レイチェルだった。

 政略結婚のための婚約らしかったが、伯爵令嬢に私なんかが敵うはずもなかった。


 私はアーノルドを奪われ、絶望した。


 私は十年以上、彼の側にいた。

 恋人としてではなく、幼馴染としてだけど、それでもずっと彼の側にいた。

 このままの関係を続けるのか、それとも関係を崩すリスクを負ってでも、さらに関係を発展させるのか、悶々と悩んでいた。


 それなのに、なんなの?

 私が何年も悩んでいる間に、いきなりぽっと出の伯爵令嬢が現れて、あっさりとアーノルドを手に入れた。

 私の長年の悩みは何だったの?

 人の恋心を、何だと思っているの?

 私が手に入れられなかったものを、どうしてあなたは、そんなにあっさりと手に入れているの?


 そんなの、許せるはずがないでしょう!?

 それからの私は、レイチェルに復讐を果たそうと考えていた。

 そのために準備も進めていた。

 しかし、ある時、その復讐さえも不可能になった。


 私は家族みんなと共に馬車に乗っていた。

 しかし、その馬車が事故を起こしてしまった。

 そして、生き残ったのは、私だけだった……。


 私も重傷だったが、大手術をして、何とか生き残った。

 見た目では元通りになったけど、臓器を損傷し、そのせいで体が弱くなってしまった。

 体も思うように動かせなくなり、ほとんど自分の意思で歩くことができなくなってしまっていた。

 

 婚約者になるはずの人も家族も失い、復讐することさえ不可能になり、私はさらなる絶望を味わった。


 しかし、そんな時だった。

 私が事故に遭ったことを知ったアーノルドが、救いの手を差し伸べてくれたのだ。

 彼が婚約者のレイチェルに相談して、彼女の屋敷に住まわせてもらえることになった。

 あんな女の世話になるなんて屈辱だったけど、私にはある考えが思い浮かんだ。


 これは、アーノルドに近づいて、彼を奪うことができる良い機会なのでは?


 そうはっそうした瞬間、私は笑みを浮かべていた。

 今までの不幸など、笑い飛ばせるほどの高揚だった。

 私は、レイチェルの屋敷に住むことになった。

 

 できることは自分でしたけど、どうしても体が弱いので、体を動かすのにも限界がある。

 そんな私を、アーノルドは優しく看病してくれた。

 ますます私は、彼のことが好きになっていった。

 

 そして、一度、足踏みをしている間に婚約者を奪われるという経験をした私は、積極的になっていた。

 アーノルドに、私をただの幼馴染ではなく、異性として意識させた。

 そして時が経つにつれ、彼からもアプローチしてくるようになった。


 そうして現在、私は遂に、アーノルドをレイチェルから奪うことに成功したのだった。


 何もかも、完璧だった。

 この時を、何年も待っていたのだ。

 これからは、私とアーノルドの幸せな生活が始まる。

 その様子を、あの女にも見せつけてやる。

 これこそが、あの女に対する私の復讐だ。

 何もかもうまくいって、私は気分が良くなっていた。


 しかし、この時の私はまだ知らなかった。

 あの女が、まさかあんなことをしようとしていたなんて……。

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