婚約者の幼馴染が、私の屋敷に住み着き、婚約者まで奪いました。彼女は病弱を盾に好き放題しているので、万能薬を作ることにします
下柳
第1話
「君との婚約は破棄する。私は、ナターシャとの真実の愛に目覚めてしまったんだ」
伯爵令嬢である私、レイチェル・ティベールは、婚約者である子爵令息のアーノルド・ストーンに婚約破棄を言い渡された。
ナターシャというのは、彼の幼馴染であるナターシャ・パリスのことだ。
しかも、彼はさらに驚くべきことを言い始めた。
「それと、婚約破棄はするが、このままレイチェルは、この屋敷に住まわせる。当然、付き添いとして私もこの屋敷に住んだままだ。異存はないな?」
いえ、異存しかありませんけれど……。
えっと、いったい何を言っているのかな?
どうして婚約者を奪われた私が、奪った張本人と、その人物に鞍替えした元婚約者の面倒を見なくてはいけないの?
どれだけ非常識なことを言っているか、わかっているの?
しかしそれでも、私には彼の申し出を断れない理由があった。
現在アーノルドは、私の屋敷で生活している。
そして数年前、病弱な幼馴染を看病したいということで、この屋敷にナターシャを住まわせてくれと頼みこまれた。
そして、私はそれを受け入れた。
しかし問題は、そのことを周りにも周知されているということだ。
ナターシャが病弱だということも知られているし、頼まれたこととはいえ、私は自分の意思で彼女をこの屋敷に住まわせることにした。
そんな私が彼女を屋敷から追い出せば、非難されることは間違いない。
そのことがわかっているから、アーノルドはこんな無茶な申し出をしてきたのだ。
あの時は、彼女をこの屋敷に住まわせることを受け入れたけれど、まさか、こんなことになるなんて思わなかった。
屋敷に住まわせてあげたのに、婚約者を奪われるなんて思っていなかった。
飼い犬に手をかまれた気分だ。
いや、そんなに生易しいものではない。
気分的には、飼い犬に丸飲みにされたような感じだ。
正直にいうと、後悔しかない。
どうして彼女をこの屋敷に住まわせてしまったのか、断ることもできたのに、どうしてあんな男と婚約したのか……。
今はそれらのことを後悔して、大きくため息をつくことしかできなかった。
ナターシャは病弱を盾に、好き放題している。
私から婚約者を奪い、さらにはその婚約者と共に屋敷に住み着いて、面倒を見させようとしている。
恩を着せるつもりはないけれど、屋敷に住まわせてあげた私に対して、よくそんなことができるわね。
さすがに私も、ずっと彼女を屋敷に住まわせるつもりなどない。
当然、こんなことをした彼女を、私は許すつもりはなかった。
そこでまずは、万能薬を作ることにした。
えっと、婚約者を奪った人の病気を治すなんて、聖人か何かと勘違いされそうですね。
でも、万能薬は、彼女に復讐するのために使うのです。
え、万能薬でどうやって復讐するのかって?
それは、あとからのお楽しみです。
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