6話:実際問題と不穏な気配

 廊下を歩く


 しかし、歩く廊下は長く


 実際あくまで、それは感覚的に過ぎないとはわかってはいる


 距離として近いはずの、この道でさえ


 長く感じてしまうのは、緊張によるものだろう


 コツコツと、歩く足跡は廊下を反響し


 その、距離をより長く感じるようにさせているのもあるかもしれない。


 どこか、学校であるはずなのに

 それが、学校ではないような空気になっているのは


 放課後の、校内の人の少なさが生み出しているのだろう。


 今も確かに感じている。


 一歩、また一歩と、廊下を歩いていき


 そこに近づいていることを


 それは、先までの空気感とは異なっているのは確かだ。


 しかし何故だろうか


 なんだか、体が嫌な予感を感知しだした。


 頭が、冷え、横に風が通ったような感覚を覚える


 背には、汗もにじみ出る。


 その冷えた感覚は、なんの予兆なのだろうか


 それは、もしかしたら不吉なものなのだろうか。


 いや、考えすぎだろう


 実際に、人の勘というのは


 思っているほどあてにならないことを知っている。


 当てになったとしても


 それは、偶然の産物に過ぎないことも確かだ。



 歩いていると当然だが、目的地は見えてくる。


 左から、赤い西日が射しこんでいて


 その先は、行く手になる、階段を示している


 階段の方向を見て、上を眺める


 しかし、そこには、段ボールが積まれている


 恐らくだが、文化祭などで使ったものか

 もしくは、これから使うものをここに置いているのだろう。


 ...


 そんな風に思う。


 目の前には、確かに段ボールが積まれていて

 人の通れる場所は...


「ん?」


 少し、遠く、また上手く隠れているため分からないが

 そこには、人の通れる穴のようなものが見えた。


 そこを、通れば行けるかもしれない。


 恐らくだが、元々屋上に行く人がいるため

 人が通るためのスペースのだろう。


 そうであれば、これは不自然ではないことが分かる。


 そう考えても、不穏な気配というのは消えない


 原因の分からない不穏さが

 まるで体の、周りに纏わりついている。


 だがしかし考えても、もう無駄なのは分かっている


 ここまで来てしまったのであれば


 その、不確定な不穏さよりも

 ここまでの、労力についてを考えるべきだろう


 結果としてこのまま帰れば、時間ももったいないし


 このラブレターの真相も迷宮入りになってしまう


 また、これが相手の仕組んだことなのであれば

 ここで帰れば、負けた気持ちになるのは確かだ


「そう考えれば、とりあえず上ろう...」


 階段を上る


[コツコツ コツコツ]


 階段の狭いスペースに反響音が響く


 元々あまり使われない場所であり

 電灯はついていない。


 あるのは、差し込んでくる光と、そもそもの明るさのみ


 どこか、学校の七不思議に挑戦しているような怖さがある。


 確かに、それは不気味だが


 同時に、その不気味さで冷静になり

 静まり返っていたように感じた廊下の外から聞こえてくる


 運動部の歓声らしいものに、目を向けることができるようになっていた。


 しかし、この場合そんなことは全くもって関係は無いことは確かだ。



 中間点に到着すると


 その段ボールが、どのように積み上げられているのかが分かる


 しかし、そのせいで、右下に開いた小さなトンネルが余計

 違和感を生み出している。


 その穴の下だけ、埃が積もっていない

 それもそうか、人が出入りしていることを考えれば当然だ。


 しかし、この段ボール本来であれば

 屋上への侵入を防ぐものなのではなかったのだろうか


 そんな風に、見えてくる。


 ある程度、統一された並べ方であり


 なのに、その一部分だけが異質なのだ。


 まぁ、そんなことをこの際考えても仕方ないのはわかっている


 ずっと今日は、こんなことを考えていて


 結果として、今ここにいるわけだ。


 事実として、受け入れることも必要だろうし


 これ以上は、突っ込まない。



 穴を潜り、上を眺める


 すりガラス越しに差し込むオレンジ色の光が

 この階段を照らしている。


「よし、上るか」


 一歩一歩と、足を進めながら


 ふと湧いてきた疑問について考える。


 それは、わざわざ屋上でする意味だ。


 正直言って、ラブコメなどの定番であれば

 屋上というのはあるあるだが、学校によっては不可能だし


 敢えて、こんな面倒くさいところまで来なくとも


 それこそ、定番の校舎裏みたいなところに誘えば良いのではないだろうか


 それが、ドッキリであれ、悪戯であれそうだが


 人目につかないところ、という点のみを重視するにしては

 屋上という選定はあまり適切じゃないと思う。


 また、悪戯だとかであれば


 校舎裏の方が、記録は残しやすい


 外から見た限り、この学校の屋上には死角は少ないし


 合理的には、見えない。


 何故、敢えてそこを選ぶ必要があるのか



 これが、仮に俺をボコすための作戦

 まぁ、これは過剰に考えすぎているのは確かだが


 そうであれば、適切な場所と言える


 人目がはばかられ、バレにくい


 目が無ければ


 バレなければ


 教師というのは、それに対して、適正な処罰は難しい


 しかし、わざわざそんなことをされることは少ないと思う。


 実際、あの二人が友人でいてくれて

 トラブルというのはあったが、そこまで恨まれることはないはず...はずだと信じたい


 ならば、敢えてそこを選ぶ意味はなんだろうか。


 思考の中に、水田花がいるという可能性は

 既にだいぶ小さくなっているということには、気づいてはない


 そして、ドアの前に立つ。


 鉄製のドアには、所々錆があり年季を感じる


 ドアノブを握る


 ...?


 


 それは、ほぼ確信に近い


 ドアノブの上にある、鍵がつぶれていて

 ドアノブも、随分と軽い気がする。


 実際に、そのドアは錆びているが


 ここまで、劣化しているようには思えない。



 冷や汗が出る。


 手から、背中から


 頭が、冷える


 少し、世界が白く見え始める


 貧血の兆候だ


 しかし、そうは言ってられない


 ただ単に、壊れているだけだろうと思う。


 そう思えば、気持ちが軽くなる。


 よし、俺は冷静だ。



 深呼吸をした



 そして、扉を開く。



 西日が、こちらに当たる




 まぶしくて、手を太陽に重ねた。





 そして、人がいるのを感じた



 それは、西日を背にシルエットとして表れていた。





 目が慣れる。



 そして、はっきりした。




 目の前にいたのは。





 

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 ラブコメ成分が欲しい_(´ཀ`」 ∠)_


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