4話:朝の一幕

 学生にとって、朝は短く


 授業は長い。


 それは、もしかしたら社会人になっても似たようなものなのかもしれないけど

 今の時点ではっきりとは分からない。


 その貴重な朝の時間をトイレで過ごした後

 今は、教室に入る直前にいる。


 それまでの道中で、やけに視線を感じたが

 推察するに、個室に長く入っていたということが認知されていたのかもしれない


 朝の時間は他の休み時間に比べて長く

 また、登校までの道中でトイレに行きたい人もいる


 そんな中で、一つの個室を占領していたという事態は

 もしかしたら印象に残る行為なのだろう。


 そんな風に、長く個室に入っていた人として認知されているかもしれない


 そして、そのように思われている可能性のある相手に

 対して振り返る気も必要もなく


 速足で、教室へ向かってきたのだ。


 あの、ラブレターに関しては、現在カバンの中にあり。


 かの友人二人に見られてしまうと色々とからかわれたり、詮索されたりと


 あまりバレて良くなるという予想ができない。


 そのため、自分で事の事態は何とか処理をして

 その結果を、報告できるのであれば、したいというのが本音なのである。


 そして、もし結果があまり芳しくないとか

 辛い場合は誤魔化せるし、話す必要はなくなる


 それでも、バレてしまう分には仕方がない


 ただ、今現在自分から伝えるほどの、気持ちの余裕はなかった。


 そんな風に考えつつ教室の前に、立っているのだ


 重要なのはここから

 もし、何か様子おかしければ、詮索されるだろう


 そこで、ついうっかり本音を漏らしてしまえばその時点で終わりが確定する。


 水田花(ここからは花と呼ぶことにするが)

 彼女からの、手紙が本当かもしれない


 その彼女からの手紙を周りはどう思うだろうか。


 今の状況としては、

 会えるかもしれないという気持ちで顔がニヤニヤしてしまう可能性がある


 しかし、そうなれば

 すぐにばれることだろう


 だからと言って、

 事の事態を複雑に考え、不安になり怯えていたら

 逆に心配されかねないのだ。


 そうならないように、平生を保ちたいのだが

 平生をいつもどうやって保っていたのか


 それにわからず、困っているという

 矛盾を抱えている。


 そのため、今の状態を外野が見れば

 教室前で、様々な感情によって変面を披露しているような状態で

 あまりに不気味だろう。


 そろそろ、廊下の人ももっと込み合ってくると考えられる

 今の時間帯からすれば、このあと予鈴がなり


 遅刻ギリギリを狙うランナーが教室に滑り込んでくるからだ


 その前に、何とか入る必要がある。


 よし、OK深呼吸しよう


 吸って 吐いて 吸って 吐いて


 よし、俺は平生


 そんな風に、自分を保ち教室の扉を開いた。


 すると、友人 一の顔が目に入る


「おは...ってなんかお前顔気持ち悪いぞ


 なんで、ニヤニヤしてんの」と


 イケメンの顔を、ゆがめてしまった。


 そんなに、気持ち悪い顔だろうか


「気持ち悪いとは...失礼だぞ」


 そんな風に、返事をしつつ一の肩を叩く

 恐らくニヤニヤ顔は抜けてない


「うぇぇ、なんかいいことでもあったんか知らんけど

 

 正直気持ち悪いからやめてくれ」


「まじで、そんなに?」


「うん、大マジ」


 真顔で返されたら恐らくそうなんだろう。


 深呼吸をして、はっきりと感情を整えていたのにも関わらず

 表に出てしまっていたのは仕方ない。


「あ、もしかしてあれか


 新しい、あの作品買えたのか?


 そういや、お前、あの作品をわざわざ書店で買いたがってたもんな~」


 おっと、何も言っていないのに

 彼が都合のいい解釈をしてくれたおかげで

 どうやら、言い訳の必要がなくなったらしい。


「まぁ、そんなところかな」


 そんな感じで、何とか誤魔化せただろう


 それにしても、そこまで浮かれていただろうか。


 もしかしたら、ここに来るまでの

 視線の原因も俺にあったのかもしれない。


 そんな風に、考えていると


「おっはよ~」といった感じで香が現れた


 高い身長と、良い声、なんということでしょう

 彼女が女子男子問わずモテる人なのです...


「おはよー」


「おはよー」


 適当に挨拶を返す


「なんの話してた?」


「いや~さ~、雄太がなんかニヤニヤしてて

 

 キモイなって話」


「いや、きもくないだろ」


 そんな風に、突っ込みを入れていく


「え、マジで?なんかいいことでもあった?」


「そうそう、なんかほしい本があったらしくって


 恐らく、それが手に入ったらしいんよ」


「ほうほう、それは、良かったやん」


 勝手に、想像し勝手に広げてくれる友人二人に感謝すべきだろう


 これによって、本来無理に隠すべきことを


 隠そうとせず、隠せてしまった


 しかし、嘘をついてしまったということで、多少の罪悪感はある


 まぁいい、ここでバレてしまうのは

 あまりよろしくないだろうし。


 バレた時に、きちんと話そう


 それまで、上手く隠しておくとして


 それで許してもらえるだろうと、信じたい


 なんだかんだ、笑って許してくれるはずだと思っている


 結果として、あまりハラハラすることもなく

 朝は、過ぎる


 予想通り、チャイムの音と共に、ランニングしてくる人たちによって

 この教室は、ざわめきに満ちていた。

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