純粋援助交際

ぺしみん

純粋援助交際

 ああ、彼女はお嬢様だから、僕の愛をお金で繋ぎとめようとしている。僕が彼女の手を優しく握れば500円。今日の服はまた、いつもと雰囲気が違っていて可愛らしいね。そんな言葉で500円を貰う。彼女のカバンには、いつも大きなガラスの瓶が入っている。ガラスの瓶にはザラザラと、500円玉がたくさん入っている。

 そんなことをしなくたって、僕は君のことを愛し続けるよ、と言うと500円玉をくれる。500円を拒否すると、彼女はとても悲しそうな顔をする。だから僕は、もう普通に500円を貰うことにした。

 そのままお財布に入れたら、愛が溢れてしまう。だから僕も自分のカバンに、大きなガラスのビンを持つ事にした。彼女のガラス瓶から僕のガラス瓶へ、500円玉が移動を続ける。デートの度に彼女のカバンは軽くなり、僕のカバンは重くなる。

 ああ、お嬢様。あなたの愛はキラキラと、500円玉に象徴されている。これは単なるコインでは無い。僕はこの500円玉を使うことが躊躇われる。僕の部屋の中に、500円玉を入れたガラスの瓶がどんどん増えていく。

 海の見える公園で僕らは初めてのキスをした。柔らかで優しいキスだった。彼女はそっと、僕に5千円札をくれた。僕はありがとう、と言ってそのお金を受け取った。その後、デートをしてキスをする度に、彼女は5千円札を僕にくれた。僕は5千円に見合うだけのキスを彼女にしなければならない。そのプレッシャーが僕には心地よかった。

 ある日喧嘩をして、彼女が僕に500円をくれなくなった。僕は彼女をムリヤリ抱き寄せてキスをした。そんなキスをしても当然、彼女は僕に5千円札をくれなかった。僕がふてくされると、彼女が500円玉を手のひらで弄ぶようにした。その500円玉を、僕は彼女から奪い取ろうと手を延ばした。彼女は目の前に広がる草原にその500円玉を遠く投げ捨てた。僕は太陽の下の草いきれの中で、500円玉を必死に探した。だけどどうしてもその500円玉が見つからなかった。僕は草原に立ち尽くして激しい虚脱感に見舞われた。少し遠くで、彼女がベンチに座って僕を見つめている。小さく目に写った彼女がとても愛おしい。だけど僕は彼女を放っておいて、家に帰りたくなった。僕はワザと、彼女の座るベンチの前を横切るようにして、その場を離れようとした。彼女が僕の服を上手なタイミングで掴んだ。そして、僕の目の前にもう1枚、500円玉をかざしてみせた。それはそれでとても綺麗な500円玉だった。だけど僕はそれを手に取らなかった。僕は彼女に声を掛ける事もなく家路に着いた。

 夜になって僕の家のチャイムが鳴った。母親が僕に、お嬢様が来たわよ、と言った。玄関に行くと、ブラウスとスカートを泥だらけにしたお嬢様が立っていた。彼女が僕の側に近づいて、僕の手に少し汚れた500円玉を握らせた。間違いが無い。それは彼女が今日、草むらに投げ込んだ500円玉だった。彼女は僕に無視をされた後、あの広い草原で、自分が投げ捨てた500円玉を今まで探していたのだ。そしてついにそれを見つけて、僕に手渡しに来てくれた。

 僕は彼女をそっと抱きしめた。彼女の体は汗ばんでいて、芳しい体臭に混じって青い草の匂いがした。僕は彼女のしなやかで細い体を、背骨が折れるほどに力強く抱きしめた。彼女の肺が収縮して、せつなく吐いた息が僕の耳をしっとりと温めた。僕が力を緩めると、彼女が僕の目をじっと見つめて、新しい500円玉を僕の手のひらに乗せてくれた。最初の汚れた500円玉は彼女の僕に対する愛の証だった。それに加えて彼女は、僕にもう1枚、綺麗な500円玉をくれようとしている。僕はそれを素直に受け取って彼女と仲直りをするべきだった。

 だけど僕は彼女に、少し意地悪をしたくなった。新しい500円玉。そんなんじゃ足りないよ、と僕は言った。少しだけ驚いた顔をして、彼女がもう一枚、僕の手のひらに500円玉を乗せてくれた。それでも僕は手の平を上に向けて、彼女の目の前に差し出したままにした。

 彼女は次々と僕の手のひらに500円玉を重ねていく。僕の手のひらから500円玉がこぼれ落ちる。僕はそれでも、手のひらを彼女の前から引っ込めようとしない。彼女はタフでプライドの高いお嬢様だから、そんな僕の行為に屈しはしない。平然とした顔で、僕の手のひらに500円玉を載せていく。

 彼女のガラス瓶が空っぽになるまで、僕らは同じ行為を繰り返した。まるでなにかの儀式のように、床にこぼれ落ちる500円玉の音を聞き続けた。もはやあまり意味もない。とてもくだらなくて面白い。手の上からこぼれ落ちた大量の500円玉が、玄関の床の上に非日常的な模様を作っている。僕の姉と妹が500円玉の音を聞きつけて玄関にやって来た。大量の500円玉を目にして、2人は這いつくばってそれらを拾い集め始めた。必死に拾う2人を、僕と彼女は不思議な気持ちで見つめている。粗方のコインが回収されたあとに、僕は姉と妹に対して自分の手のひらを差し出してみた。2人は僕を無視して、お嬢様に丁寧にお礼を言った。そして大量の500円玉を持って、その場を立ち去ってしまった。

 何も無くなった家の玄関で、僕はもう一度彼女の体を抱きしめた。彼女はもう500円玉を持っていない。だから僕が抱きしめても、彼女は僕に500円玉を差し出す事は出来ない。僕は彼女のほっぺたに小さなキスをした。彼女は首をかしげて、僕をいたずらっぽく睨みつけた。こんな小さなキスは5千円に値しないのだ。僕は彼女の手を引いて、自分の部屋に連れて行った。そして改めて、僕は彼女を抱き寄せて、ゆっくりと丁寧にキスをした。唇を離すと、彼女は微笑んで5千円札を僕に差し出した。僕はありがとう、と言ってそのお金を受け取った。

 ベッドの上に2人で座って、僕は彼女を背中から抱きしめる。ドキドキしている僕の心臓の音が、彼女の背中に伝わっていると思った。僕に抱き締められながら、彼女は僕の部屋を眺め回している。部屋の中には500円玉の入った大きな瓶が並べられている。彼女がベッドからスッと立ち上がった。そして、僕の500円玉の瓶に手を掛けた。

 瓶の蓋を回して、彼女が500円玉を何枚か自分の手に載せる。彼女が僕の500円玉を1枚盗んだ。その500円玉を彼女は改めて僕に手渡してくれた。彼女はその遊びが気に入ったようで、瓶から次々に500円玉を取り出し、僕の手のひらに乗せた。こぼれ落ちた500円玉で、僕のベッドの上がザラザラになった。

 ザラザラなベッドの上に僕と彼女は横になった。500円玉に埋もれるようにして、僕は彼女を背後から抱きしめる。僕は自分の体を彼女の体に密着させた。僕がもぞもぞと動く度に、ベッドの上の500円玉がザラザラと音を立てる。彼女がゆっくりと振り返って僕の方に向き直った。ほくろが点々としてチャーミングな白い肌が、透き通って僕の目の前に迫っている。彼女の細い首筋や手足に、500円玉がぺったりと張り付いている。薄桃色のブラウスの隙間にも500円玉が入り込んで、生地の向こう側に丸いコインの影が透けて見えた。

 僕は彼女の体から500円玉を一つづつ剥ぎとって、大きな瓶に入れていく。彼女はじっと体を動かさずに、僕のされるがままになっている。彼女の長くてつやつやした黒い髪に手を差し込んで、僕は500円玉を探す。ブラウスのの背中に手を入れて500円玉を掻き出す。彼女の顔をじっと見てから、僕はブラウスのボタンを外そうとした。彼女は僕の手をそっと抑えた。スカートの中に僕は手を入れようとした。分かっていたけれど、それも彼女に制止された。

 僕は体を起こして、ベッドの上でしょんぼりとしている。見かねた彼女が僕に1万円札をくれた。僕はありがとう、と言ってそのお金を受け取った。その後2人で、ベッドの上の500円玉を大きな瓶に片付けて行った。500円玉を集め終わって、ほとんどすべての瓶がコインでいっぱいになった。

 彼女がベッドから立ち上がった。彼女の体から500円玉が数枚転がり落ちた。服の中にまだ入っているよ、と僕は言った。彼女は微笑んで僕の目を見ている。僕はもう一度、彼女のブラウスのボタンに手をかける。彼女は身動きせずに僕の目に対して訴えかけていた。ブラウスのボタンは外してはいけない。

 僕は彼女の服を脱がすのを諦めて、転がっている500円玉を手に取った。僕は彼女の背中に500円玉を入れてみた。500円玉はストンと床に落ちる。次に彼女の胸元に500円玉を入れる。500円玉は落ちてこない。もう一枚、差しこむように500円玉を入れた。彼女が小さくジャンプをした。500円玉が2枚、床に転がり落ちた。

 僕は男だから、500円玉を君の服の中に探したい。服を脱がせて丁寧に調べたい。そう言ったら、彼女が僕に5千円札をくれた。5千円札の抵抗はキスと同じ力がある。彼女はまだ準備が出来ていない。僕はありがとうと言って、5千円札を受け取った。

 ぐったりとベッドに横たわって、僕は部屋の天井を見詰める。彼女が僕を哀れんで、また5千円札を僕に手渡そうとした。さすがに僕はそれを断った。彼女が苦しそうな笑顔を浮かべる。大丈夫。僕が焦りすぎたんだ。男の性欲って結構凄いものなんです。僕は自分の瓶から1枚500円玉を取り出して、彼女に手渡した。彼女はその500円玉を丁寧にハンカチに包んでポケットにいれた。そして自分の家に帰っていった。


 彼女と付き合って半年。僕らは高校3年生なのです。デートをして、僕は500円玉を彼女にたくさん貰う。キスをして5千円札を貰う。そのあとに僕は、彼女に500円玉を沢山手渡す。下半身が苦しい時ほど、500円玉をどんどん彼女に手渡す。デートをする度にキスをする度に、僕の500円玉は減っていった。あまりにたくさんの500円玉を手渡すので、彼女は僕に5千円札でお返しをしようとした。だけどそれを貰うわけにはいかない。僕のほとばしる500円玉を、5千円札でうやむやにされるわけにはいかなかった。

 手持ちの500円玉の数を調節して、僕はクリスマスの日に最後の500円玉を彼女に手渡した。これが最後だよ、と僕は言った。彼女は頷いて、手のひらにその500円玉を載せてじっと見ていた。このあとどうしようかと、彼女が迷っているように見えた。そんな彼女にお構いなしで、僕は彼女をホテルに連れ込んだ。2人でホテルのベッドに座る。僕は彼女を抱きしめて、彼女の頬に自分の頬をこすりつけた。彼女の体から力が抜けた。僕は彼女の体を押し倒してキスをする。気がついたら彼女は泣いていた。彼女は僕が渡した最後の500円玉を、ベッドの上に投げ出した手で強く握っていた。

 僕は泣いている彼女の服を脱がせていく。彼女はブラジャーとパンティだけの姿になった。彼女はまだ500円玉を握り締めている。握りしめたその手が振るえている。涙がベッドの上にこぼれ落ちて止まらない。僕はブラジャーとパンティだけの姿になった彼女を抱きしめる。彼女の皮膚の感触と匂いをしっかりと確かめる。そのまま30分ほど、僕は彼女を抱きしめ続けた。前から横から、後ろから抱きしめても、彼女は一切抵抗をしなかった。

 ベッドの上に、彼女の服が脱ぎ散らかされている。僕はそれらを手に取った。彼女をベッドの上に起き上がらせて、今度は服を着せていく。彼女が不思議そうな顔をしている。彼女はまだ500円玉を握り締めている。僕はゆっくりと丁寧に、彼女に服を着せ終えた。

 お嬢様、僕はとても苦しい。もう限界なんだ。だけどね、泣いているお嬢様にこれ以上乱暴は出来ない。僕はもう500円玉を持っていません。そう言って、僕は彼女に5千円札を手渡した。彼女が沈んだ顔をして5千円札を受け取った。彼女がこの5千円札を受け取らなかったら、僕は彼女にもう一度乱暴をしようと思っていた。だけど彼女は5千円札を受け取った。

 僕は1万円札を彼女に手渡した。彼女はそれも受け取った。僕は泣きそうになった。実際に僕は泣いた。駄々をこねるようにして泣いた。困った彼女が手で触ってくれた。ゆっくりと動かして、僕の頭が真っ白になった。終わった後に、彼女は僕に一万円札をくれた。僕はありがとう、と言ってそのお金を受け取った。僕は素晴らしく安らかな気持ちになっていた。

 それならそうと、早くやってもらえばよかった。僕はそれで充分だったみたいだ。僕がそう言ったら、彼女が微笑んで僕に5千円札をくれた。襲いかかってごめんね。本当に、どうしようもなかったんだ。君の事が本当に好きで、自分の体と一緒にしたかったんだ。僕はそう言って彼女の頬に小さなキスをした。僕は彼女に一万円札をもらった。僕はありがとう、と言ってそのお金を受け取った。

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